Black Widowers10

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Black Widowers10

『あァッ、んあっ、ふっぐぅっ』 放心状態のピジョンの視線の先で、大股開きのスワローが喘いでいる。 『ドッグタグをしてるとはいい心がけじゃないか」 『ぅ……はなっ、せ、ころすぞ』 息も絶え絶えな虚勢を嘲笑い、美しいペニスをもてあそぶダドリー。 『ッは、ァっふ』 鉄輪で遮られた顔が歪み、吐息が弾む。閉じないように両脚を固定した股間にカメラが寄り、カウパーの濁流にまみれたペニスが大写しになる。 男たちがそれをすくいとり、スワローの内腿に腹に、下拵えでもするようになすり付けていく。 『とぷとぷ先走りがあふれてくるぞ。俺の手が臭い汁でびしょびしょだ』 痴態を視姦する男たちが下卑た笑いを漏らし、欲望に火照った手が次々群がる。 『かわいがってやんよ、ツバメちゃん』 映像は粗くノイズだらけ、それがかえってリアルさを増す。後ろに回った男がじれったげにジッパーを下げ、猛々しい剛直をさらけだす。 目を背けたい。逸らせない。テレビのスワローが濁った絶叫を上げる。男がスワローの腰を掴んで抽送を始め、ギャラリーが野次りだす。 『ぅあっ、あっ、あうっあっ』 腰と腰が打ち合わせる都度イエローゴールドの前髪がはね、苦痛に歪んだ素顔が覗く。乱暴に突かれながら鎖を巻かれた手で胸元をまさぐり、ドッグタグを掴む。 ピジョンは手も足も出ず、弟が犯されるのを見ているしかない。 何だこれ。 どうしてスワローが。 嫌だやめてくれ俺の弟にさわるな離れろ。 願い虚しく祈りは届かず、悪趣味なポルノは進んでいく。 『あのストレイ・スワロー・バードを喰っちまった!!見たろお前らコイツのメス穴に俺のがずぶずぶ入ってくの、アハハ相当使い込んでやがるなこりゃ、美味そうに咥え込んではなさねー!』 調子に乗って快哉を叫ぶ男、渦巻く爆笑。スワローは苦しげに床に突っ伏している。三人目が射精に至る頃には自らねだるように腰を振っていた。 連続で種付けされたスワローの胸板を太い指がなでまわし、乳首を搾り立て揉み潰す。 別の男が赤く腫れたペニスをいじくりがてら罵倒する。 『メス犬らしく孕めオラッ、ケツマンから子犬をひりだぜ!』 『期待のルーキーストレイ・スワロー・バードの華麗なる転落劇、性奴隷デビューのご感想はどうだ?』 漸くピジョンは理解した。 離れ離れの間、弟の身に何が起きたか。 『優しくできねーのはお前のせい』 『なんでだよ』 『わかんねーならいいよ別に』 『ちゃんと口で説明しろ』 『修行とかたるくねェ?』 『全然。毎日充実してる』 『負け惜しみじゃねーの』 ピジョンはスワローの言い分を信じた。 兄貴がいない間も万事恙なく上手くやってたと、むしろ足手まといが消えてせいせいしたとのたまうのを疑いもせず真に受けて、下手に詮索するとうざがられるから、コヨーテ・ダドリーの件を蒸し返してこなかった。 思えば妙だった。 底抜けに目立ちたがり屋で自惚れが強いスワローが、大金星といえるコヨーテ・ダドリーの手柄話だけ何故避け続けてきたのか、不思議に思わない方がどうかしてた。 『せかすなメス犬、食いしん坊なケツマンにたんまり子種くれてやっから。カワイイ子犬を産んでくれよ?』 『ははっ傑作だな、なんなら出産ショーもビデオに撮るか』 もうたくさんだ。 やめてくれ。 『でっけえのきた……あっあッあぁ、あァッ』 コヨーテ・ダドリーの仕切りのもと、過酷な調教を施されていくスワロー。 汚い子種を代わる代わる尻に注がれ、前も後ろも滅茶苦茶にもてあそばれ、狂おしく淫らに堕ちていく。 目の前の現実を否定したい理性とは裏腹に、過激な痴態を見せ付けられた下半身が熱を孕む。 「ッ……?」 まさかそんな。 『顔を上げろ。よく見せるんだ』 打ちのめされた心を裏切る体の変化。愕然と見下ろせば、股間がギンギンに勃起していた。 テレビの中のスワローがダドリーに顎を掴まれ、ドロドロに溶けた顔を上げる。 ばらけた前髪を透かす虚ろな眼差しと、裸の胸で揺れるドッグタグに目が行く。 『これから何十、何百人のズリネタにされる気分はどうだ』 「ぁ……」 残酷な言葉が胸に突き刺さる。 『野良ツバメ、お前に大事なヤツはいるか。恋人。友人。家族。なんでもいい、コイツだけは絶対手放したくないと思えるかけがえのない存在。陳腐な言葉を使えば心の支え。ソイツがコレを見たら、どう思うかな』 俺はお前に欲情してる。 大事な弟がクズどもに輪姦されるポルノを見て、股間をギンギンにしてる。 「ッは、ぁ」 スワロー。 俺のスワロー。 世界で一番可愛い俺の弟。 お前がレイプされるポルノを、オカズにしてる。 『ソイツに見せ付けてやれ』 守るって約束した。 『想像してみろ、お前の世界で一番大事なだれかがカメラの向こうにいるところを』 『よ、せ、さわ、な』 壊された。 『カウチに寝そべってポテチを食いながら、あるいはコーラとポップコーンを両手に、完全に無防備な状態でこのビデオを見ている』 『やめッ、あぁ、っだれ、そが』 『ブラウン管にお前があらわれる。さて……どんな顔をするかな』 ダドリーが赤ん坊に排泄させるようにスワローを抱え上げ、竿をしごきたてる。スワローは暴れていた。勃っていた。ピジョン以外の男に抱かれて、めちゃくちゃに感じまくってる。 ダドリーが奪ったドッグタグを必死で取り返そうと身悶えるも手荒く揺さぶられ悶絶、されど諦めず追い回しその動きが残忍な刺激になって高まっていく。 ダドリーがドッグタグを噛んだのち吐き捨て、無造作に犬に投げ与える。 犬が前脚で押さえたタグをなめまわし、踊り食いする。 「スワロー、ぁああ」 ダドリーが前をはだける。 挿入と同時にスワローがイく。男が勢いよく放尿し、口輪から黄色い雫が滴る。 ダドリーを咥え込んだスワローは涎を撒いてよがり狂い、薬で感度を高められたペニスが透明な潮を吹く。 『俺の……ハトが……くれた、だいじな……だれにも、ぜってえ、やるもんか……』 ピジョンの股間は爆発寸前だ。 小刻みに震える手がデニムのテントに伸び、引っ込み、また伸び、上から包むようにしごきたてる。 どうして。 なんで。 おかしい。 「ぁあ゛ッ、あ」 髪の毛を掴んであとずさり、残る手で血の集まったペニスを握り潰す。 『ふぁっ、ンあ、あっあ、ふぁっィく』 剛直が前立腺を潰して奥を突き、直腸の肉襞を巻き返す都度爆ぜる快感に仰け反り、母とよく似たメスの顔で媚びる。 『スワローを守ってね、ピジョン』 ずっと昔、巣立ちの日に母さんと約束した。 俺がアイツを守るって。 アイツは俺がいなきゃだめだから、俺がいなきゃすぐ無茶するから。 吐き気を催す凌辱はまだ続く。 髪を掴んで引き立てられたスワローが、醜い犬の醜いペニスをしゃぶっていた。 むせ返るような獣臭さになんとか耐え、グロテスクな肉瘤に覆われた異形のペニスを夢中で頬張り、吸い立て、突付き、含もうとしてえずき、されど底意地で踏ん張り、涙を蒸発させる怒りをくべた眼光を上げて挑み、醜悪な陰茎をどんどん太らせていく。 『うまそうにしゃぶるんだな。はしたない孔を埋めてくれるならイヌでもヒトでもお構いなしか、心も体も立派なメス犬だ』 俺の弟はメス犬だ。 母さんと同じ。 俺と同じ。 俺たちは売女の私生児で、母さん譲りの特別淫蕩な血が流れてるんだ。 「ッは、ぁあ、あ」 今すぐペニスをもぎとりたいそうすればお前を汚さずすむこのさきも兄さんでいる事を許してもらえる犬にフェラチオするだらしない顔に欲情し自分がされてる妄想に溺れずすむ。 「どうしてだよ、やめろよ、そんなことするな」 ナイフを使わせたら右に出る者いなくて、とんでもなくプライドが高くて、あのキマイライーターにだって命知らずに突っかかっていったお前が、なんで犬のもんをしゃぶってるんだ。 「しないでいい、頼むから」 ごめんスワロー、ごめん母さん。 俺が何もできないから、グズでノロマで馬鹿で弱いから守れなかった。 スワローの顔に大量の白濁がぶちまけられると同時に理性が決壊し、吸殻が積もった灰皿をぶん投げる。 テレビ画面が割れて火花が散るのを待たず、ローテーブルを両手で持ち上げ振り下ろす。 ソファーを続けざま蹴飛ばしマットを殴り付け、片っ端から雑誌を破って放り投げる。 椅子の脚を壁でへし折り、チャイニーズフードやピザの紙箱を薙ぎ払い、凶暴な雄叫びを上げて壁に頭突きをかます。 額に激痛が爆ぜ、鼓膜がキィンと鳴る。スワローと自分を隔てる壁に何度も額を打ち付け、胸元にたれたタグを掴み、声にならない声で叫びまくる。股間はまだ固い。ちっとも萎えない。 神様、アンタを殺したい。 どうして俺をこんなにした、どうして普通の兄さんでいさせてくれなかった。 強くてかっこいい兄さんが無理なら、せめて優しく正しい兄さんでありたかったのに。 「ピジョン、これお前がやったのか」 背後でドアが開いた。逆光に塗り潰された劉が、部屋の惨状に呆然としている。ピジョンは顔を上げず尋ねる。 「知ってたのか」 「は?」 「コヨーテ・ダドリーの所で起きた事。劉も一緒だったんだろ。スワローがされた事……全部知ってたのか」 劉の顔が強張る。それが答えだ。 「なんで知った」 「ビデオで見た」 「ンなもんどこで……哥哥?ダドリーのブツを回収したのか」 椅子の脚や吸殻、空き缶を跨いで歩み寄ったピジョンが、別人のように荒みきった表情で呟く。 「どうして教えてくれなかったんだ」 「スワローに口止めされた。言ったら殺すって」 「そうか」 叩き割られて暗転したテレビに心が死んだピジョンが映り込む。 破壊されたモーテルの一室、窓から差し込む夕陽が赤く染め上げる部屋で相対し、劉が俯く。 「……止めらなくてすまない」 小声で詫びる友人の横を通り過ぎ、ドアから出る間際にピジョンは言った。 「兄さん失格だ、俺」 劉は追いかけてこない。ピジョン一人で行かせる。 荒らされた部屋に独り立ち尽くす劉に背中を向け、ドアを閉ざし、隣の部屋をノックする。 不用心な事に鍵はかかってない。ノブを回して踏み込めば、二台並んだベッドの片方にスワローが横たわっていた。床には夥しいビールの空き缶が転がっている。 壁を殴って傷付いた拳から血が滴り、床に敷かれたカーペットを斑に染めてく。 俺が修行にいかなかったら、スワローはあんな目にあわずにすんだのだろうか。 俺の他にアレを見たヤツはいるのか。 焼き直されて出回ってるのか。 もしそうなら見たヤツ全員の脳天を撃ち抜きたい、片っ端から地獄に叩き込みたい。 『スワローを守ってね、ピジョン』 母さんごめん。 俺、スワローを傷付けた。ひとりぼっちにした。 アイツがよってたかっていじめられてたのに、飛んで帰ってやれなかった。 消えたい。 だれかいますぐ殺してくれ。 スワローがいるベッドに至るまで、一歩一歩が気が遠くなるように感じられた。途中でよろけて前にのめり、片膝付いて立ち上がり、漸く弟のもとに辿り着く。 隣のベッドには兄の不在を補うようにスタジャンが脱ぎ捨てられていた。 タンクトップとジーパンのみ身に付け、安らかな寝息をたてるスワローを覗き込み、頬に手を添える。 「寝てるのか」 俺のせいだ。俺が悪い。お前をひとりぼっちにしたから、だからあんなことになった。 不甲斐ない自分への殺意と怒りを持て余し、狂おしい胸の痛みに喘ぎながら、ピジョンははっきり自覚する。 ビデオの男たちと自分の間に、一体どれだけ差があるというのか。連中がスワローをおもちゃにしたように、俺だってスワローに欲情したじゃないか。 ポルノビデオの視聴中ピジョンの胸の内で荒れ狂っていたのはスワローを貶めた連中への殺意と怒り、それを上回る嫉妬。 「あんな顔で抱かれるのか」 俺には一度も見せたことないくせに。 知らなかった。知りたくなかった。他の男に抱かれるお前の痴態も、ドロドロに感じている表情も、あそこにいるのが俺だったらと妄想していた自分の醜さも。 「守りたかったなんて嘘だ。本当はずっと抱きたかった。お前が俺にしてるようなこと、お前にしたかった」 ずっと目を背け続けてきた汚い欲望を最悪の形で突き付けられ、欺瞞を暴かれる。 シーツを掻きむしってひとしきり呻き、その後意を決してスワローに跨り、ジーパンを脱がしていく。 スワローはよく寝ていて気付かない。子供の頃の面影を宿す、天使のような寝顔。 「ごめんな」 俺のスワロー。俺だけのスワロー。 お前を俺だけのものにするには、こうするしかない。 胸の内で膨らむ罪悪感が背徳的な興奮をかきたて、外したロザリオをテーブルに伏せた。
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