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 (ゲート)の外には、鬱蒼とした森が広がっていた。  木々の合間をじっとりと湿った空気が漂い、リイザは初めて空気が肌にまとわりつくような感覚を味わった。リイザの“国”は、気温も湿度も、常に快適になるように調整されているのだと、父王は言っていた。  そして空を見上げると、絵本に描かれていたような薄暗い灰色の空が広がっている。  「“他の国(プルル・シルパ)”、本当にあったんだ……」  アステが呆然として呟く。  ぽつぽつと、地面に水滴が落ち始めて地面の色を変えていく。  雨だ。 「すごい! これが『雨』なのね!」  リイザは歓声を上げた。  頬に雫のぶつかる感覚、重厚な土の匂い、そして、木々の葉にぶつかる雨音のなんと心地よいことか。 「ねえ! アステ、やっぱり雨って素敵だわ!」  リイザが振り返る。しかし返事はなかった。  アステは俯いて、何かを繰り返し呟いている。 「アステ?」  リイザはアステの顔を覗き込む。  雨脚が強まっていく。リイザの髪も服も、ぐっしょりと濡れて重たくなっていく。 「姫さま、帰りますショう、カエり、ま、ショ、ウ」  アステの言葉の合間に、ザーザーとノイズが入る。 「いけないじゃないか、リイザ。アステが壊れてしまったよ」  そう言って、(ゲート)から出てきたのは、リイザの父だった。 「アスタリスクには防水機能はつけてないんだ」 「お父さま?」  リイザは父を見上げた。彼女にアステを与えたのは父だった。 「さあ、家に帰ろう。外は危険だよ、この世界には終末が迫っているからね。  雨に毒が入っていることもあるんだよ、海や川も汚染されてるんだ。もちろん地上の食べ物や空気もね」  父が顔をしかめる。今この瞬間すら耐え難いと言わんばかりに。 「でも、わたし……」 「雨が欲しかったんだろう? 今度から、庭にもランダムで雨が降るように作り直してあげるから」  「帰ろう」と背を押されて、リイザはあらがうことができなかった。  雨は、周囲の景色がぼやけて見えるほど激しい。  ザーザーと何もかもをかき消す雨音は、リイザのただ一人の親友の断末魔とよく似ていた。
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