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「ねえアステ! ここに書いてある『雨』って、降ると『パラパラ』『しとしと』って音がするらしいわ!」  リイザ姫は、古ぼけた絵本の一頁を指さしながら言った。 「姫さま、また王さまの本を勝手に読んでるんですか? また叱られてしまいますよ」  そばにいた小柄な少年アステが顔をしかめる。リイザの父の国王は厳しい父親で、娘が城から出ることはおろか、城にある本を読むことも禁じている。アステは自由の少ないリイザのお世話係であり、リイザの唯一友だちだ。 「そうよ、お父さまのお部屋の本に書いてあるの、『雨』って水が空から落ちてくるって。お城の庭では見たことがないわ」 「空から水が降ってくるなんてお城の外でも、見たことも聞いたこともありませんよ。それは、“他の国(プルル・シルパ)”の話じゃないですか?」  アステは首をかしげながら、リイザの読んでいた絵本を覗きこんだ。  絵本には、荒れ果てた大地に灰色の空から水の粒が落ちてきている様子が描かれ、それを見た人々は身を寄せ合って泣いている。これが“他の国(プルル・シルパ)”の『雨』なら、とてもリイザの言うように素敵なものとは思えない。  この国は、リイザやアステのご先祖さまが、“他の国(プルル・シルパ)”から逃げてきて作った世界だと伝えられている。きっとこんな風に泣いてしまうほど悲惨な出来事ばかりだったから、ご先祖さまたちが作った今の“国”には『雨』もないし、病気や争いもない、“理想の国”なのだとアステは思った。 「アステがお城の外でも見たことないなら、やっぱり“他の国(プルル・シルパ)”のものなのね。決めた! アステ、“他の国(プルル・シルパ)”に行くわよ!   『雨』を見て、『雨音』を聞いてみるの!  『雨音』っていろんな音があるのよ、私、ぜんぶ聞いてみたい!」   「でも、“他の国(プルル・シルパ)”に行くには、(ゲート)を合言葉を使って開けないといけないんですよ? 最後に(ゲート)を開けたのは、ご先祖さまたちがこの国にたどり着いた何百年も前のことじゃないですか。もう誰も合言葉なんて……」 「知らないわね。でも、アステの家はその(ゲート)の番人をしてるじゃない。もしかしたら、合言葉が残ってるかも!」 「うーん、ボクは聞いたことないけど」 「そうと決まったら、アステの家に行くわよ! さあ! 出発よ!!」
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