夏雨

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やがて八島が顔をあげて目が合った。 昏い色をした強い視線に、阿南の心臓が揺れた。そんなことは時々あって彼はやり過ごす術を知っていた。 けれど。 ふたりだけの時間。微かな汗の匂い。腕の届く距離。 日は傾いて斜めに茜色の光線が差していた。親友の筋の浮いた首が赤く染まっている。熱そうだなと阿南は思った。脈打つ血管を想像した。 魔がさした。 そっと腕を伸ばす。 触れた固い首は想像通り熱かった。問うような八島の唇に襟足を掴んで口づける。抗う手を防いで腿に乗り上がった。 見下ろした八島は戸惑っていた。しかし阿南の潤みに呼応するよう荒れた指の先で親友の背骨を辿った。 阿南が小さく身を捩る。八島の体温が微かにあがった。白いワイシャツの裾を潜った大きな手のひらが汗ばんだ背中を荒々しくなでる。 互いに服を脱がせて熱に浮かさせるように抱き合った。言葉もなくてふたりは初めての熱に没頭した。 勝手がわからず見よう見まねで八島が阿南の体を開く。他人に押し入る征服感に八島が唸る。 無理をする阿南の首筋はじっとりと汗に濡れていた。時間も感覚も遠くなった彼の耳なかにいつの間にか降り出した夏雨の音だけが微かに響いていた。 その音は時々耳元に返って少年を立ち止まらせる。 「それから彼になにか言われたかな」 「いえ。あいつはなにも言いません」 「避けられる?」 「いいえ」 「じゃあなにか変わったことは」 「視線が」 関係を持ってから八島はひどく熱のこもった目をするようになった。阿南のしなやかな白い背や、硬い腱の伸びるふくらはぎなんかを思い出すような。
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