夏雨

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芳美、と呼ぶその調子に違和感を覚えた。友人にしては甘えるような、肉親にしてはよそよそしいような。一体誰だろうと首を傾げていると教師が姿を現した。 「先生。お邪魔します」 「あがりなさい」 階段を下りてきた池内はいつも通りの眼鏡で、しかしラフなTシャツにジーンズ姿だった。学校ではワイシャツに地味な色合いのスラックスを履いている姿しか見たことがなかったので面食らう。 そろそろと彼の後に続くと出迎えてくれた男もついてくる。ちらちら視線をやると、弟だよと池内が教えてくれた。 似てないな、とは口にできなかった。年の頃は同じなのに様子が違う。けれど纏う雰囲気はどこか似ていてなるほどなと阿南は納得した。 縁側の戸を開いた居間に通される。男ふたり住まいなのか素っ気ない。女手は感じなかった。 「暁人(あきと)」 池内が男を呼ぶと彼はすっと廊下を挟んだ向いに消えた。陶器の触れ合う音や水音がし始めて台所なのだと知れる。 「悪いね、遠くまで」 「いえ」 「自転車で?」 「ええ」 「あの坂を?」 「はい」 「若い」 池内が笑ったところで暁人がグラスをふたつ乗せた盆片手に戻ってくる。褐色の麦茶が注がれたグラスがびっしりと汗をかいている。どうぞと供した彼が勧めるのでおずおずと口をつける。 煎りの濃い麦茶の香ばしさが鼻に抜ける。思いの外喉が渇いていたのか瞬く間に飲み干してまった。替わりを持ってこようとする男を遮って、阿南と池内は打ち合わせを始めた。
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