夏雨

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合宿の宿泊施設や交通手段は毎年決まっている。話題は主に練習内容、そして夏の試合に向けた人選だった。正式なメンバーは合宿の後に発表するけれどおおよその目処は立っている。 「二年の林は」 「最近熱心ですね」 「後輩が出来たからか」 「彼女が出来たからでしょう」 「へえ」 「相手がバレーボール部らしくて。同じ体育館練習なんでいいところを見せたいようです」 「それはそれは」 「中堅は新堂ですか」 「そうだな」 さらさらと名前をノートに書き込んだ阿南は空いている副将と大将の枠を見下ろした。 「先生」 「お前だぞ」 「え」 「大将は阿南」 「でも」 「決定」 話は終いだと池内が手を打ったところで茶色い髪の男が顔を出した。身繕いに無頓着な質なのか、よく見ると太い輪ゴムで髪を縛っている。 「素麺茹であがったけど」 「じゃあ、僕はこれで」 「三人前茹でちゃったよ」 「え」 「食べていきなさい」 「そんな」 「茹でちゃったんだよ」 おっさんふたりじゃ食べきれないなあ、と態とらしく嘆かれる。大人の男ふたりの圧に負けた阿南は躊躇いながら食卓につく。 四人がけのダイニングテーブルの上で金魚鉢のような薄青い器に素麺がみっしりと詰まっていた。 「三人前?」 「茹でちゃったんだよ」 「食え」 男三人でひたすらに白い麺を啜る。大して親しい訳ではない教師との食事だったけれど不思議と気詰まりはしなかった。暁人と呼ばれる弟が軽妙に話題を提供するので池内は黙したまま、阿南はタイミングよく相槌を打つ。 「元々は東京でカウンセラーをしててね」 「へえ」 「見えないでしょう」 「そんなこと」
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