雨と雷鳴に、香り立つ薔薇と君

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 黄金の美姫として名高いガートルード王女は、すらりと背が高い。  令嬢たちの間に立てば頭ひとつ抜けていて、煌めく金髪、雪白の肌に非の打ち所のない類まれなる美貌が衆目を惹きつける。 「来てくれてありがとう。会えて嬉しいよ」  形の良い唇からこぼれる声は、意外なほどに低い。 (「そこがまた良い」ってご令嬢方を(とりこ)にしているから、うちの姫様は。話し方も気さくで、分け隔てないし。輪に入れない令嬢を見かければ、さりげなく声をかけ、相手の興味のある話題を探して盛り上がったりして。お茶会に出るたびに何人信者を獲得する気なのか。あの方が男性でなかったのは、幸いなのかもしれない)  護衛として常に影のように寄り添っているシャロンは、いつもの光景を前にして、無表情を保ちつつ小さく吐息。  今日も今日とて、王家の庭園で開催されている茶会の中心は、大輪の薔薇よりもなお輝きを放つガートルードとご令嬢たち。  もちろん、ガートルードはそこにいるだけで空気の華やぎが増す麗人、男性たちからも熱烈な視線を浴びせかけられている。どうにかして声をかけようと距離を詰める貴族の子息、あるいは一瞥だけでも良いから視界に入りたいとばかりに周囲をうろうろする誰かの侍従や護衛兵など、引きも切らず。しかし大方、ガートルードを崇拝している令嬢たちに阻まれて企ては失敗に終わっている。  ほころびのない、完璧包囲網。  シャロンとしては、「私は必要無いのでは」と思うこともしばしば。  つい、遠い目になって曇り空を見上げる。 「シャロンさま、シャロンさま。お仕事ごくろうさまです」  そのとき、ガートルードの包囲網に加わっていない令嬢のひとりが、シャロンに声をかけてきた。  明るい栗色の髪を結い上げ、緑の瞳に同色のドレスを身に着けた令嬢。親しげな微笑を向けられて、シャロンはすばやく相手を確認しつつ、生真面目な表情を崩さずに答える。 「メリッサさま、(ねぎら)いをありがとうございます。ですが、私は影ですので、どうぞお気になさらず」 「そんな固いこと言わないでください。何か召し上がってます? 護衛任務は体が大切ですもの、食べられるときに食べなければ」 「仕事中です。食事はこの後任務を離れてからとりますので。お気持ちだけで」  いまにもあれこれと世話を焼かれそうな気配を感じ、シャロンは言葉と態度できっちりと断りの意思を示した。
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