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会社を出ると、真っ直ぐに自分の乗る車両へと向かい、タイヤと荷物の点検をして運転席へ乗り込んだ。そしていつも通り、片手でハンドルをひと撫でする。
この行為は自分でも無意識のうちに、いつの間にか癖づいていたのだ。
このトラックとも、なんだかんだでもう8年近い付き合いになる。愛着が湧くのも無理はない。
高校を卒業してすぐ、俺はこの運送会社に入社した。
最初は小型トラックで市内配送をしていたのだが、次第に社内の人間関係が煩わしくなり、24のときに大型車の免許を取得した。朝も早く長距離を走る大型トラックのドライバーへと転身をすれば、他の人間と顔を合わせなくて済むと考えたからだ。
しかし、複数の従業員と関わらずに済む分、勤務時間帯が同じドライバーとは頻繁に顔を合わせることになってしまう。豊富さんも、その一人だった。
人として生まれ、人の中で生きていく以上、誰とも関わらずに生活をすることは、きっと不可能なのだろう。
「さて、行くか。ん?」
エンジンをかけようとポケットの中の鍵に手を伸ばした時、いつもは無い感触に触れた。そういえば......
「どうすっかな、これ」
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