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その瞬間、耐え難いほどの頭痛と耳鳴りに襲われ、俺はハンドルにもたれかかるように頭を押さえ、うずくまった。
まただ…。
あの時の光景が甦り、ギュッと固く瞼を閉じる。
嫌な記憶というのは、どうしてこう何度も何度も、勝手に甦ってくるものなのか……。
あの時…、あの時の親父の顔。泣き叫ぶ母親。
『地獄』とは、きっとこういうことなのだろうーーー
それだけはあの瞬間に抱いた感情で、唯一覚えているものだった。
それ以外は、もう何も覚えていない...。
あの時、俺は何を言ったのか。
あの後、俺はどういう行動をとったのか。
もう何も思い出せないんだ。
それなのに、20年以上経った今も、あの時の光景だけは鮮明にーーー
それらの記憶を吹き飛ばすように、俺は全力で頭を振り、ハンドルを握った。
今になって、どうにもできない問題に押し潰されそうになる日々から、いい加減抜け出したい。
そのためには、俺自身が気持ちをしっかりと持たなければいけないのだろう。
「よし」と、自分にも聞こえないほどの小さな気合いを入れ、俺はアクセルを踏み込んだ。
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