と な り

画面越しの『さくら』という文字をひと撫でし、着信ボタンへと親指を向ける。が、

「今さら…電話して何を話そうってんだ」

こんなことを、もう何度繰り返しただろう。

あの日、電話の向こうで声を震わせながら「元気でいてね」と言った彼女の声が、今でも鮮明に脳裏に刻まれている。

もっと、何かできたのではないか。何か言えたのではないか。あの時、引き留めれば……

「はぁ」

重たい息を一つ吐き、口が開いてすでに生ぬるくなっている缶ビールへと手を伸ばした、その時

「んっ？」