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「おはようございまーす」
職場に到着してすぐ、タイムカードを切った俺は、アルコールチェックをしようと事務所の扉を開けた。しかし、どこからも返事は返ってこない。
「今日は誰もいませんね、っと」
時計の針は5時45分を指している。
当然、この時間に出勤しているものは少ない。
朝が早いのは辛いが、極力人に会わなくて済むということもあり、この仕事を選んだ。
けれど、この年齢になって若干後悔もしている。
もう少し安定した仕事に就いていれば、さくらとの結婚も前向きに考えられたかもしれない……。って、そんなことはただの言い訳だ。
あの時、踏み切れなかった原因はもっと別にある。そして、それは自分でも分かっていることじゃないか。
ただ、そのことからずっと目を逸らしているだけでーーー
「…おはよーっす」
「わっ!!……って、また事務所に泊まったんすか。豊富さん」
来客用テーブルの奥から、芋虫のようにのそっと起き上がった豊富さんを前に、一瞬心臓が跳ね上がった。それと同時に、くるぶしをテーブルの足に勢いよくぶつけ、上半身にまで鈍痛が走る。
幽霊とか、ホラー映画が苦手な訳ではない。ただ俺は昔から、‟突然出てくる系”に心底弱いのだ。
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