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第一話:不審人物
「おはようございます」
「あ、おはようございます」
ん??
あんな若い子、このマンションに居たっけ?
ゴミ収集車にギリギリ間に合ったが、謎が残った。
最近誰かが引っ越してきた様子もないし、俺の部屋は一番端で、お隣さんはたしか男性の一人暮らしやったはず。
1階は整骨院と、美容室、そこのスタッフにもこんな子はいなかった。
2階は高齢者の二人暮しばかりのフロア。
3階は、小学生のお子さんがいる3人家族の部屋、アトリエに使用されている部屋、そしてお隣の男性一人暮らし、俺の部屋。
3年ほどここに住んでいるが、メンツはほとんど変わってないはず。
もしかして、ゴミの不法投棄か?
俺は彼女の後をつけることにした。
え?!
あれ??
俺の隣の部屋やん!?
たしか男の一人暮らしやったはず。
女連れにしても、若すぎやろ。
マンションの管理人としては、気になるところだ。
まぁ、彼女でもできたんかな。
そう落とし込んで、様子を見ることにした。
ベランダに出て、一服していると、お隣さんがベランダに出てくる音がした。
朝と夕方、彼女はせっせと、トマトの苗に水をやっている。
洗濯物を干す前に、水やり、取り込んでしばらくすると、また水やり。
結構几帳面な子だな。
「あ!!トマトかわいい!すごい!たくさんできた!」
と、ある晴れた朝、彼氏を見送ったあとのルーティーンでベランダに出てきたその子は嬉しそうにそう言った。
俺は思いきって声をかけてみた。
「こんにちは」
ベランダの柵からお隣に向かって、挨拶をした。
「え??」
その子はどこから声がしたのか、一瞬気づかなかったのか、少しキョロキョロして、俺と目が合った。
「こ、こんにちは」
「驚かせちゃった?ごめん、それ、トマト?」
「う、、あ、はい」
「たくさんできたんやね」
「はい」
「俺はキュウリ作ってるよ」
「え?キュウリ?」
「あ、俺は秋山です、森野さん?でしたっけ?」
彼女は少し間を置いて
「はい♪」
なんだか嬉しそうな声が、胸に刺さった。
「キュウリ、要ります?嫌いでなければ」
「欲しいです!食べたいです」
「ちょっと待ってね」
何本かもぎ取ると、柵越しに彼女に手渡した。
「ありがとう、秋山、、さん」
「いいえ、どういたしまして、欲しくなったらいつでも」
「サラダにする、美味しそう」
むちゃくちゃ喜んでくれるやん、キュウリ如きで。
ナスとかゴーヤでも植えようか、と、本気で考えてしまった。
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