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そこで、目が覚めた。
「……あっつ」
夢と同じように、私は夏休みを利用して一人で祖父母の家にいる。違う点があるとすれば私は高校生二年生になり、その間に祖母が亡くなったということだろうか。
朝ごはんを食べに居間に向かうと、新聞を読んでいる祖父がいた。
「おはよう」
「……おぅ」
いつも朗らかに笑って喋っていた祖母とは真逆で、祖父は厳つい顔をした寡黙な人だが、見た目に反して優しい人である。こんな家出するようにやって来た私を何も言わずに受け入れ、こうして朝ごはんを用意してくれるのだから。
祖母の家系は巫女だったこともあり、祖父母は代々受け継いできた「真鯉神社」という小さな神社を管理している。宮司である祖父は新聞を読み終えると、日課である境内の草むしりのために家を出た。
私も朝の運動ということで外へ散歩に出る。
田舎でも特に寂れた地区にある公園にたどり着いた私は、木陰の下にある公園のブランコに座った。こんな猛暑なら子供たちは家でゲームをしているかと思ったが、小学低学年ぐらいの女の子と、高学年ぐらいの男の子の二人がいる。
「キャッキャ」とボールを蹴って遊んでおり、とても無邪気だ。いいなぁ、私もその頃に戻りたい。夢で見た祖母が生きていて、将来について何も考えなくても良かったあの頃に。
一人で祖父母の家に来るのは、どちらも私が家に居づらくなった時で夢で見た時と今回で二回目だ。
地味な私と違い才色兼備な八つ年上の姉の澪は、両親からとても愛されている。そんな澪はもうすぐ結婚して実家を出るのだが、家は祝福ムードでいっぱいで両親はそのサポートで忙しくしている。
でも、私も愛されたい。私だって来年には大学受験を迎える。
もし澪が私の立場だったら、両親は「帰省せず、受験に向けて勉強しなさい」と言っただろう。でも、言わなかった……つまり、私のことはどうでもいいのだ。
そして難関国立大に受かり、就職した先の大手企業で職場結婚する……順風満帆な澪に言われた言葉が、脳裏から離れない。
「真那は将来、何がしたいの? 目的もなく生きてたら、人生勿体ないよ」
両親から私の分も含めて愛情を多く貰っておいて何故、私が悪いとでも言うように諭されなければいけないのか?
そのせいか、とても澪の結婚を祝福できる気がしなかった。このままではよくないと、私は荷物をまとめて祖父母の家へ向かったのだ。
──ザラ、ザラリ。
物思いに耽っていると、私の頬や腕を「あの風」が撫でる。雨魚の感触だ。しかも、この感じは一匹などではなく大群……小雨などではなく、ゲリラ豪雨になるだろう。
私はボール遊びしている子供たちに声を掛けた。
「君たち、雨が降るから一旦家に帰りなさい」
「え~何で?」
子供たちが不満そうに言う。「子供相手ならいいか」と私は、種明かしをした。
「お姉さんはね、雨が来るのを予測できるの」
「どうやって?」
「雨を降らす魚を感じ取れるから」
と、自慢げに私は言う。子供だと「スゲー!」と盛り上がってもらえることが多いのだ。しかし、二人は黙ったままだ。不審に思った私は、彼らを見てゾッとした。
子供たちの瞳孔は猫のように縦長になっていたからだ。男の子が口を開く。
「──お前、『雨魚の巫女』なのか」
そう言って私を見上げる男の子に、隣にいる女の子が口を挟む。
「でも、兄さま。巫女の力は途絶えたのでは?」
「けれど、また力を持つ者が生まれたのだろう」
巫女のことを知っているなんて。私は恐る恐る尋ねた。
「あなたたちは、一体……?」
「驚くがいい、人間。私たちは──」
男の子が言葉を続けようとした直後、「ザアアァア!」とゲリラ豪雨が降ってきた。木陰にいた私はともかく、兄妹には大粒の雨が降り注ぐ。
すると、「ポン!」という音とともに、白い煙が二人を包む。煙が晴れると、それぞれ一枚の葉っぱを頭に乗せた黒毛と、一回り小さい子狐が現れた。
頭の葉っぱが、はらりと地面に落ちたのを見て小さい子狐は、ふるふると震えて叫んだ。
『うわぁああん! 黒兄さまぁ! 雨で変化が解けちゃったぁ!』
『馬鹿! キャラを崩すな! なめられるだろ!』
人の言葉を喋る狐なんて、あり得ないのだが……狐なんて初めてで。傍からだと、じゃれているようにしか見えない子狐の兄妹喧嘩は、正直可愛かった。
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