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それは景色が揺らめく陽炎のように、朧気な記憶。
小学四年生の私は、夏休みを利用して祖父母の家に一人いた。いつもなら家族四人で、毎年訪れるのだが……高校三年生の姉は大学受験の前のため、帰省どころではない。両親は姉のため実家に残り、私だけが来ていた。
まぁ、私が家に居ても姉である澪の邪魔になるし、受験前のピリピリとした空気が嫌だったからいいのだが。
そんなわけで私は、縁側でスイカを祖母と二人で食べていた。
会話はなく、風鈴が「ちりん、ちりん」と鳴り、蝉が「ミンミンミー」と歌い、「シャクシャク」とスイカを咀嚼する音の三重奏が聞こえるだけ。
その時、風が私の頬を撫でた。それは「さらり」というより、「ザラリ」とした感触……まるで魚の鱗を撫でたような。
「おばあちゃん、雨がやってくるよ」
私は雨一つ降らなそうな青空を見上げつつ、言う。
私は雨を予測することができる特技があった。この不思議な風を感じると、降水確率が〇%だろうと雨が降る。他の人には普通の風と変わらないらしいが、私にはその区別ができた。
そんな私に小学校でついたあだ名は、「人間雨雲レーダー」である。
「真那ちゃんも、わかるのかい?」
祖母が驚いた顔で、私に言った。
「恵美……真那ちゃんのお母さんや澪ちゃんわからなかったから、私で終わりかと思ったけどねぇ」
よくわからずにいる私に、祖母がわかりやすく教えてくれた。
祖母の家系は、代々巫女を輩出していたらしい。龍神様に神楽を捧げて、雨乞いをするのだ。巫女の資質を持つ者は、雨の気配に敏感だったと言う。
しかし人々が雨乞いを必要としなくなった結果か、巫女の資質を持つ者は生まれなくなった。親戚にもいないため、祖母は自分が最後なのだろうと思っていたほど。
「雨の正体はね、魚なの……『雨魚』って言って、姿は見えないけど」
「雨魚って、どんな魚?」
「大きくなるために龍脈、餌になる『気』がある場所を探して泳いでてね……この魚がたくさん集まると、雨が降る」
「『気』?」
「自然の力みたいなものよ。私たちは雨魚の気配を感じ取ることで、雨が来るってわかるの」
今思えば、それは私自身が漁師の使う「魚群レーダー」のようで、あだ名であった「雨雲レーダー」はピッタリであったと言える。
「昔やっていた神楽は、その雨魚を誘き寄せるための舞だったらしいけどねぇ」
「ねぇ、おばあちゃん。その魚は餌を食べてどうなるの?」
「それはね──」
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