初夏の話。

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そろそろ梅雨が始まる。 あの季節が来てしまう。 じめっとして、泣きたくなるような、大嫌いな、季節が。 水玉模様の傘を買おうかと悩み、ふと手に取り、やめた。 そして、ビニール傘を買った。また、今年も。 濡れぬように鞄をひしりと抱えて、 水溜まりを避けるように、そっと。 《高3の受験期の始まり、青春最後の夏。 皆ピリピリしているのに、 邪魔するかのように雨の音は、唯、五月蝿く鳴り響いている。 窓辺の席に座り、朝から降り続けている雨を眺める。 窓に反射して映る僕は、怪訝な顔をしていた。 見ていないけれども、他の人もそうだったように思う、屹度。 放課後の教室に残って勉強していると、いつも君がやってきては 「コンビニ行ってジュース買おうよおお」とぼやくから。 君にどうしようもなく甘い僕は、 大嫌いな雨の中を君と二人、並んで歩いた。 君は雨に濡れるのが好きだといつも言っていた。 この時期にしか味わえないなんとも言い難い高揚感が 大好きなのだと。 そうやって髪をびっしょりと濡らし、 スカートを絞って幼げに笑う君が何にも代え難いほど愛おしくて。 君にどうしようも無く甘くなってしまうのも、 仕方のない事だよな、絶対。》 《午後から雨がひどくなることを知らせるメールが、 スマホに響く。 「傘、忘れたなあ…」 天気予報を見ずに家を出た事を悔やみつつ、 ビニール傘を買おうと財布を探す。 …やばい、忘れた。母さん、ほんとごめん。 届くはずも無い懺悔をブツブツとぼやいていると、後ろから 「傘、貸そうか?」と君が覗き込んできた。 「ウチ、雨に濡れるの好きなんね?  可愛い水玉の傘買ったんだけど使わんくて勿体無いし、  雨嫌いやったろ、win-winじゃん!使ってな!!」 win-winという事も無いだろうけれど、 困っていたので申し訳ないが借りる事を決めた。 二人が分かれる場所までは二人でさして、 後日代わりにジュースを奢ると約束をして、 君と別れた。》 《風呂を出たタイミングで、君から電話があった。 先にLINEしてからかけろや、と思いつつ電話に出る。 かけてきていたのは君の母親で、 少し不思議に思った矢先、要件を伝えてきた。
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