オレンジの海月

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8月30日。 この日はお兄ちゃんが出場するはずだった水泳大会の日だった。 東京の大きな競技場で開かれるこの大会は、全国からトップ選手が集まる、とてもレベルの高いものだった。 お兄ちゃんはその中でも優勝候補として期待されていた。 そんなお兄ちゃんの突然の悲報に、水泳関係者は驚きと悲しみを隠せないでいた。 観客席の私の隣にはお兄ちゃんの写真。 水着姿でピースした、私の大好きな笑顔の写真。 ピースする手を見ると、私に大きな安心感をくれた、あの海の中で繋いだ手を思い出した。 お兄ちゃんは水泳界ではちょっとした有名人だったから、色んな人が私の両親に声をかけていた。 私の隣にあるお兄ちゃんの写真を見て涙目になる人もいた。 そしてそのお兄ちゃんの隣にいる私を見て、「これからはきっとお兄ちゃんに守ってもらえるよ」って言ってくれる人もいた。 私はお兄ちゃんの話をされるだけで泣いちゃうくらい、まだお兄ちゃんとの突然の別れを受け入れられていなかった。 だけど、そんな私が少しでも強くなるために、お兄ちゃんが全力を注いで大きな夢を描いていた水泳というものをちゃんと見ようと思って今日大会に来た。 あの夜、私はお兄ちゃんに捨てられたんだと思った。 だけどいろんな選手が泳ぎ競い負けて涙するのを見ると、お兄ちゃんはこんなに厳しい世界で上を目指して登りつめていたんだということを目の当たりにした。 こんなに厳しい世界なら、私や家族と離れて本気になって打ち込む環境が必須だったんだということを今更ながら実感した。 お兄ちゃんは、こんなに多くの人の涙の上に立っていたんだ。 背負うものの大きさが私には全く想像できなかったけど、大会が進むにつれてお兄ちゃんの凄さに恐れ多くなって震えそうになっていた。
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