オレンジの海月

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私は両親を待つことにした。 その間、彼は隣にいてくれた。 「帰らなくても大丈夫なの?」 「ああ。俺も今姉貴を待っているから」 「お姉さんいるんだね。今日出てたの?」 「出てた。俺は泳ぐのは苦手だから、ここにいる選手全員を尊敬するよ」 彼が泳げないのはかなり意外だった。 お兄ちゃんに似てるから、勝手に泳げると思っていた。 「あ!いたいた優!帰るよ!」 人混みの中、遠くから女の人の声が聞こえた。 「姉貴が来たようだ。君の両親が来るまで一緒にいてもらうか?」 「えっ!いや!それはさすがに申し訳ない……お姉さん来たなら帰ってもいいよ!大丈夫!」 「そうか。では、気をつけて」 そう言って彼は、すぐに人混みに姿を消してしまった。 そういえばちゃんとお礼言ってない…… あまりにもあっという間にいなくなってしまったので、彼を追いかけようにも、もう人混みに紛れて姿すら見えなくなっていた。 名前だけ、一瞬聞き取れた。 「優」くん… というか、さっき優くんを呼んだ女の人……… 私の見間違えじゃなければ…… お兄ちゃんのプリクラに一緒に写っていた人だ。 今日の表彰台のトップに登って、お兄ちゃんと同じ夢を語っていた人だ。 優くんは、お兄ちゃんの彼女さんの弟だったのかな……… お兄ちゃんにそっくりな彼のことが、その時から頭を離れなかった。 だけど名前も名乗りあってない私たちは、お互いのことを何も知らなかった。 一緒にいたのはたった数分間なのに、私にとっては強烈な思い出になった。 そして私が「優」くんと中学の入学式で再会した時…… きっとお兄ちゃんが私に起こした、優しい奇跡なんだと思った。
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