オレンジの海月

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「よしっ!お兄ちゃんの勝ちだ!」 数秒遅く花火が消えたお兄ちゃんが、横で嬉しそうに笑う。 「んーもう……!しかたないなあ!」 「仕方ないってなんだよー勝負は勝負だろ?」 私がむくれると、お兄ちゃんはケタケタと笑う。 私はそんなお兄ちゃんの笑顔が見たくて、ついこうやってワガママを言っちゃうのだった。 「なあ梨々、お兄ちゃんな、もしかしたら梨々とこんなに長い間夏休み中遊べるのは今年で最後かもしれないんだ」 燃え尽きた花火の匂いに包まれながら、お兄ちゃんが突然空を見上げながら言った。 「え…………なんで…?」 「ごめんな。俺、来年から県外の高校に行くことにしたんだ。その高校は九州にあってさ。かなり遠いから頻繁に帰省もできないし、できたとしても部活で忙しくなるから数日間しか一緒にいられなくなるんだ。」 「そんな……」 「寂しい思いさせてごめんな、梨々。お兄ちゃんも本当は梨々とずっと一緒にいたかったんだけど……俺はもっともっと強くなって、いつかは世界に出てみたいんだ。」 思わず泣きそうな声になる私を見もしないお兄ちゃんの目線は、遠く先に向かっていた。 「俺は、オリンピックに出て活躍して、日本中を元気にしたい。俺は梨々と違って勉強もできないししっかりしてない。……海月みたいにプカプカと水に漂うことしかできない。…けど、それが誰かのためになるなら……俺はそれを極めたいんだ」 お兄ちゃんのことは大好きだ。 だけど、たまにお兄ちゃんが眼鏡の奥でする……遠くを見つめる目は、少し嫌いだった。 目の前に私がいるのに、全然こっちを見てくれない。 遠くの大きな大きな何かを真っ直ぐに見つめる目。 そこには私は映っていない…。
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