オレンジの海月

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午後。 お兄ちゃんと海に行く約束は15時だった。 「………梨々」 寝室に寝転がって漫画を読んでいた私に、後ろからお兄ちゃんが声かけた。 「梨々、今日も海に行くんだろ?準備した?」 喧嘩したからか、いつもより少し元気なさげなお兄ちゃんの声がする。 私はお兄ちゃんの方を振り向きもしないで答える。 「………行かないって言ったじゃん…」 「そっか。けど、明日には帰るんだよ?今日行かないとまた来年まで行けなくなっちゃう。来年になったらもう…」 そこまで言ってお兄ちゃんは言葉を止めた。 「俺は梨々と海に入りたいな。昨日あそこまで入れるようになったんだ。梨々なら今日はもっと入れるようになるよ。梨々が成長するところを見せてほしい」 私はお兄ちゃんが何を言っても決して反応しなかった。 「…………………先に行ってるから、気が変わったらおいで。待ってるね」 お兄ちゃんは諦めたのか、そう言って階段を降りていった。 私はこの時、内心すごく迷っていた。 お兄ちゃんが言いかけた通り、一緒に海に行くのは今日で最後になるかもしれない。 だけどやっぱり昨日の話をまだ許せていないところもある。 ……本当は分かっていた。 ただ素直になれなくて、意地張ってるだけ。 お兄ちゃんに少しでも構ってもらいたくて、気にかけてもらいたくて、ずっとムツくれているだけなんだ。 素直になればいいのに、今日は海に行こうと思えなかった。 私はどんだけ意地っ張りで面倒くさい子なんだろうと自分でも思った。 こんな妹じゃ、お兄ちゃんに捨てられても当然なのに……… そう思うと自然と涙が出てきた。
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