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集中力が途切れ、読んでいた漫画雑誌から顔を上げて壁に掛けた時計を見ると、昼を僅かに過ぎていた。漫画雑誌をローテーブルに置き、ググっと身体を伸ばしながら視線を窓の外へ向けると、その向こうでは未だ水滴たちが落下していた。今朝よりも、やや激しくなっているような気がする。相変わらず、彼女はそんな世界をガラス板一枚隔てたこちら側で座って眺めていた。
僕は空腹を訴え始めた腹を擦りながら、ぼんやりとしている彼女に問いかける。
「お昼、どうする?」
「んー」
彼女はそんな上の空の返事を返してきた。こういう時は、何を出してもまず文句は言わない。
僕は立ち上がると、リビングと一続きになっているキッチンへ向かい、棚の中から買いだめてあるカップ麺を二つ取り出した。電気ケトルを引っ張ってきて、その中に水道水を流し込み、台にセットしてスイッチを入れる。ジューッと水が熱せられている音がする。それもやがては、グチュグチュと言ったような、小気味良い音に変化した。
お湯が沸騰し、スイッチが切れる。注ぎ口からはもくもくと湯気が立ち上っては、部屋の中に溶けいるように消えてなくなっていく。ふと、水道の蛇口から一粒だけ水滴が零れ落ちた。それは乾いたシンクの上に勢いよく叩きつけられ、ドンッと銃声を限りなく小さくしたようなくぐもった音が鳴り響いた。その音はシンクの中で残響し、次第に小さくなるにつれて、外の雨音に掻き消されてしまった。
カップ麺にお湯を注ぎ、お箸を二膳取り出して彼女の許に戻った。きっちり三分計り、彼女に声を掛けてカップ麺を手渡した。
「熱いよ」
「……ん」
僕がスマホを弄りながらカップ麺を食べ終え、彼女の方を見ると未だもそもそと食べ続けていた。視線は変わらず窓の外を――窓の外の雨粒の群れを映しているようだ。
段々と強くなっていく雨脚に合わせ、灰色の街は白く煙っては、その存在を不確かなものへと変えていくように思えた。
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