雨傘地蔵

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 早速マナは家を出ると、家の近所をあてもなく歩いた。  青々とした空の下に山の峰が続いている。  ぶらぶらと小さな集落の中を歩いたが、路上に人影は見えない。  白い日差しが眩しく、マナはアスファルトの細道を逸れて山裾へ近づいた。  山の麓に、鳥居が見えた。  ふと、その鳥居に向かって歩いていった。  鳥居をくぐって木陰に入ると途端に涼しくなり、マナはそのままゆるやかな山道を登った。 「あれ、曾おばあちゃん」  坂を登りきったところで、マナが見たのは曾祖母の背中だった。  曾祖母が振り返る。  皺だらけの瞼が、優しそうに微笑んだ。  ひゅうひゅうと鳴る呼吸音に重ねて、曾祖母は言う。 「あらあ、マナちゃん」 「曾おばあちゃん、こんなとこで何してるの?」  すると曾祖母は、背後にあった(ほこら)と、その中に安置されたお地蔵さんの像を指した。 「お地蔵さまに、お水あげに来とったんよ」  そう言った祖母の手には確かにペットボトルがあり、お地蔵さんの前には、水の入った茶碗が供えられていた。 「へえ」  確かにマナが住む都会でも、下町へ行くと道路のわきにお地蔵さんを見かけることがある。時々供えられている花などは、きっとこういう地元のご老人がお供えしているのだろう。 「マナちゃんも、お地蔵さまに、手ぇ合わせていって」  そう言った曾祖母は、お地蔵さんに向かって合掌した。  断る理由もなく、マナは言われるままに曾祖母の隣に立ち、両手を合わせる。  お地蔵さんはかなり古いらしく、顔の表情などはわかりづらくなっているが、子供用のカラフルなレインコートを着せられていた。  きっとこれも、曾祖母や近所の人たちの気遣いなのだろう。  何となく微笑ましいなと思っていると、手を下ろした曾祖母がゆっくりと歩き始めた。 「じゃあ、帰ろうかね」  マナは、それに従って歩いた。  道すがら、不意に曾祖母が話し始めた。 「あのね。私ねえ、むかあし、雨傘(あまがさ)地蔵(じぞう)さまに助けてもらったことがあるんよ」
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