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大学一年の夏休み、八月半ば。
マナは両親に連れられ、曾祖母の家に数日滞在した。
そこはコンビニがないどころか携帯の電波も時々圏外になるような田舎で、マナは三歳の時に一度訪れたことがあるらしいが、もちろんおぼえていなかった。
「曾おばあちゃん、認知症入ってきちゃったらしくてね。まだ元気なうちに、一回会っとこうと思って」
そう母が言った。
曽祖父はもうずっと昔に他界しており、残った曾祖母は母の姉一家と共に、まるで映画で見るような古い日本家屋に住んでいた。
古い家も初日は物珍しかったが、二日目の朝にはもうマナは退屈していた。なんといってもスマホがほぼ使えない。
SNSもほとんど読み込めず、事前にスマホにダウンロードしていた漫画も読み切ってしまい、マナは居間の座敷でぼんやりと寝転がっていた。
「ねえマナちゃん、曾おばあちゃん見てない?」
部屋に入ってきた叔母さんに尋ねられ、マナは体を起こした。
「見てないよ。どうしたの?」
「家の中にいないのよ。最近何も言わずに出かけちゃうことがあってね……喉の調子も良くないのに」
曾祖母は生まれつき気管支に障害のある人で、呼吸音に独特の雑音がある。調子が悪いと咳が続くこともあるそうで、家族は皆心配していた。
「出かけるってどこに?」
「どこってこともなく、ふらふら出てっちゃうのよ。言ってみれば散歩なんだけど」
それを聞いて、マナは立ち上がった。
「じゃあ私、曾おばあちゃん探してくるよ。ヒマ過ぎて、ちょうど散歩とか行こうかなって思ってたところだから」
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