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『のり太郎。お仕事終わったら電話ちょうだい』
ワイシャツのボケットで静かに鳴るスマホの振動に気付き、おそらく彼女からだろうとメッセージを確認。仕事中だけど構わず他の社員らに見つからない様にデスクの下でスマホを隠して操作しながら、もうすぐ終わるから待ってろな、と返し、つい先程、同じ部署の女子社員が差し入れに出してくれた熱い缶コーヒーを飲み干した。
さてと。もうひと仕事、頑張らないとな。
仕事、とはいってもそっちの作業はそれ程嫌じゃない。寧ろワクワクする方だ。場合によっては、というか今までの経験上、この連絡アリのパターンだと、大好きな彼女……のりりんに背後からギュッとしがみつかれ、モロに前半身密着で触れられるから。
今、彼女は仕事のイベントの打ち上げで、主催者と主催者の関係者、そして彼女の仕事仲間……アイドルユニットのメンバー達と共に街の方の洋風居酒屋に居る。
そう。つまりメッセージの内容は『飲みすぎちゃったみたいだから迎えに来て』って事。深夜のアイドルのひとり歩きは危ないですよね、って勿論そんな事させるわけないですよ。マネージャーさん居ますよ、ちゃんと。
のりりんは僕に迎えに来て欲しい
そういう事なのです。アイドルとはいってもまだ地方でひっそりと活動中のアイドル。今回のイベントも何組か居るアイドルグループ枠の一組に入ってるってだけで全国ネットで放送されてる番組に出演してる感じのものではないから文春砲だとかいったマスコミも今のところは怖くはない。彼女はいつかテレビに出れる様になりたい、っていう夢を持って仕事に取り組んでる。僕もできる限りその夢を応援してあげたいところだけど、正直言うと今の2人のこの 幸せな状況が壊れてしまう事になってしまうのは、とても嫌だ。
のりりん調子に乗って飲みすぎてないかな、とか何食ってんかなとか考えてるうちに仕事が終わる時間になっていた。コーヒー出してくれた女の子に「お疲れ様。うまかったよ」と空になったコーヒー缶を見せてジャケットを羽織り会社を出た。すぐにそっちへ向かうと僕の迎えを待っている子猫ちゃんの元へ車を走らせる。
職業アイドルののりりんと普通の会社員の僕は――――一緒のマンションの一室で暮らしている。
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