愛鍵

僕、山本徳( のり)は現在23歳。これから迎えに行くさっき話した同居人ののりりんとは高校時代に出会った元・同級生。今から８年前の入学時に漢字は違うけど山本乃里( のり)って僕と同じ読みの名前の女子生徒が居る事を噂で知った。名前のせいで卒業まで一緒のクラスになる事は一度も無かったけれど名前のお陰で彼女と近付けた気がする。
だって、絶対気になるでしょう。
勝手に運命感じてましたよ。

この子とはこの先絶対何かあるぞ――――ってね。

アホみたいっすよね。『僕って、こんなキャラやったっけ』思い返して溜息零しましたわ。
当時、特に仲が良いってわけではなかったけど、小学校時代からの腐れ縁の郡上( ぐじょう)という男( ヤツ)が居る。3年間無駄に『男』を出さず草食系で行くつもりだったが、そいつの影響で僕の恋心に火がついたといっても過言ではない。そのあたりのエピソードは後に話す事にするが、のりりん曰く僕の当時のイメージは登下校時や移動教室中、姿を見る度に〝常に何かを食べている人〟ってイメージだったらしい。確かに歩きおにぎりとか日常的だったのは否めないが、もっとこう……イケメンだったとか、2人っきりになって触れて欲しかったとか、後者は若干変態入ってる感じだけど、そんなのは無かったですか、とさり気なく問いただしてみたけど5秒ほど間を空けて「ない」って言われた。期待した僕の表情(かお)を見てプッと吹き出して「ない」って2度も言いやがった。まぁ、そんなとこも含めて可愛いんだけれども。

因みに僕の方はのりりんの存在を知った頃から性欲に目覚めた様で、廊下ですれ違いざまに鼻をすするフリして匂い嗅いだり、退屈な授業中に妄想のオカズにして校内、校外時々自宅と様々なシチュエーションで愉しませて頂きました。妄想が実現する時が来るまでそれは言わないつもりですけどね。

のりりんはその頃からアイドルのオーラを纏ってて、さっき話した郡上はのりりんが可愛い、可愛い、ちっちゃい、可愛い、と廊下で僕とすれ違う度にいちいち自慢報告してきた。因みに郡上のやつは、彼女と卒業するまで3年連続で同じクラスだといった許し難いキャラだった。

のりりんは学年の〝陽キャ軍団〟って言うのか、そういった世の流行りに乗ってるキャピキャピ女子のグループに居た。トイレに行くのも隣に必ず誰かが居て中々話しかけられなかった。何を話題にしたらいいのか『山本さん今から小便っすか？』なんて聞けないし。2人っきりになるチャンスなんかそんな簡単に作れなくて向こうから話し掛けて貰えるのを待つしかなかった。