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有田さんが佳子さんとお子さんに頻繁に関わっていた事は初耳だ。お葬式へ行ったのは知っているが病院へも行っていて、いろんな形でフォローしていたことは知らなかった。
だとしたら、きっと聡太くんが亡くなった日、彼は精神的に結構きつかったんじゃないだろうか。
私が有田さんに告白し抱いて欲しいと言ったあの日は、彼にとってとても大変で辛い日だったはず。
自分の事だけで相手の事に目を向けられなかった。あなたは大丈夫ですかと訊いてあげられなかった。
杏奈は今ベッドで眠っているだろう有田さんに思いを馳せた。早く会いたい。
けれど、言っておかなければならない事がある。
「鈴木さん、今からとても厳しい事を言います」
鈴木さんは、杏奈の方を向き、静に頷く。
「当時、私はあなたを救えなかった。それは、救うチャンスをもらえなかったからです。いろんな事をひとりで背負い込もうとして自分も一緒に落ちていってしまった。そこがあなたの間違いでした」
今までこんな話し方を鈴木さんにした事はなかった。
「佳子さんはいろんな人に依存していました。極端な依存はある意味病気です。直接会ったことがないので、もちろん私の個人的な意見です。意志とか根性とか善意、愛、道徳などで治る依存症はない。なぜなら病気ですから」
諭すように続ける。
「なんとかしようとか正しい導きを、という努力は専門の方に任せた方がスムーズに事が運びます。病気を持ちながら治療をしなかったらどうなるか、答えは簡単です。悪化します」
専門家に相談しないのなら、治らない。そう杏奈は感じている。
「ですから鈴木さんあなたは、高い防御力を身に着けてください。これから鉄壁のガードを作らなければなりません。先ほど終わったとおっしゃいましたが、佳子さんからの攻撃は終わりではないと私は思います」
突拍子もない事を言ってくる可能性は大いにある。
一連の問題は全て佳子さんが起こしたこと。私たちは巻き込まれただけに過ぎない。杏奈は一気にしゃべった。
「佳子さんがこれから僕に何かを仕掛けてくるだろうという事を言っているのかな?もう彼女にそんな気力はないと思う。みんな疲れ切ってしまったからね。でも、君の助言はありがたく受け止めます。彼女も命より大切なものを失ってしまったんだからもう静かにしていると思うよ」
鈴木さんは苦笑いした。
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