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出会い
体力が回復すると、私の居場所はすぐになくなった。退院しろと急かされても、行く当てがない。
覚えているのは、あの時に見た光景だけ。
飛び降りる寸前の目の前に地上が近づいてくるあの感覚だけが、脳裏にこびりつき足をそこへと向かわせる。
あの場所は――
実家はもう、ずいぶん前になくなってしまった。それは、たぶん私のせいだ。私の行いのせいで、家族は散々に去ってしまった。
私が上京前に住んでいた所は、「ど」がつくほどの片田舎で、家族に何か起きればたちまち町中に噂が広まってしまうほど容赦なく透けた町である。
田んぼを三つ越えた坂薪さん家は、長男が高校受験に失敗して性格が荒くなり、目に映った物全てを壊すようになってしまったとか、大きな山を所有している都須加さん家は、一人娘が大手の会社に就職したまではよかったのだが、そこの課長との婚外恋愛に陥り、奥さんと泥沼の関係の末、刃物を持ち込んだ争いで警察沙汰になったという。
このように、全てを知り尽くされてしまうど田舎の町が、私は死ぬほどいやだった。だから高校を卒業と同時に上京し、さっさと就職を決めそれからはずっと独りでいるのだ。
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