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  ――とはいえね、最終的にそれを受け入れたのは自分だし。その事に後悔はないし。実際お会いした王妃様は可愛らしいけれどそれと同時に美しさもあって、でもやっぱり可愛らしいしあと本当に賢くてお心も優しくて年下だけどそんなの関係なしにお慕いしちゃうわよね!  リサが寵姫となる事に王妃は最初反対だった。それはけして自分がないがしろにされるから、ではなく、自分を慰める為に寵姫として雇われるという事に対してだ。 「わたくしのためにそんなことをなさらないで……陛下もあんまりです、いくらわたくしのためとはいえ、この様なことを年頃の女性に対して頼まれるだなんて」 「王妃殿下、どうか陛下のお気持ちをお察しください、仕方がないんです、なにしろ陛下ときたら【ヘタレ】なんですもの」 「――え?」  途端、パアッと王妃の顔が輝いたのは今思い出しても可愛らしいとリサは思う。その後、わずかに身体を弾ませて 「リサ様はイーデンの言葉をご存知なの!?」  かつては敵対していた国同士だ、お互いの言語を習得している物は珍しくはない。しかしリサが口にしたのはイーデンの中でも古い言語で、今はごく一部の地域でしか使われていない物だ。それをリサが知っている、という事が王妃の心を大きく揺さぶった。  王妃の心を掴むならここしかない、とリサはそのまま流暢にイーデンの言葉で喋り続けた。話の中身は主に国王の悪口だ。年若い王妃を迎える事にあたり、どうにかして心の支えになってやりたいがなにしろ十の年の差は大きい。さらには男女の差。どうしたって無理だろう、というので同じく十の差はあれどまだ女性の方が、というので自分に役目が回ってきたと。つまりは――ヘタレであると。 「それでも王妃殿下を心から思うお気持ちは本物ですよ。こんな非道な真似をしてでもなんとかして王妃殿下を支えたいのだという陛下のお気持ち、どうかご理解ください」  王妃の視線はリサと国王・ステンの顔の間を何度も行き交う。喜びと、そして同じくらいの困惑の瞳に、リサは一つの可能性に遅まきながらに気が付く。  そろりと振り返れば、苦笑を浮かべた国王陛下と、渓谷ばりに眉間に皺を刻んだ護衛の騎士が一人。  なるほど会話が筒抜け――ってまあそうよねそうですよねそんなトンチキな気遣いするくらいのお方ですものイーデンの言葉だってちゃんと把握されてますよねー 「それにしたってよくお分かりになりましたね? 今だとほとんど使われてない方の言葉だったのに」 「さすがに全部は聞き取れなかったが、まあ、だいたいは」  国王はそう言って朗らかに笑うが、護衛の騎士は険しい顔をしたままなのでどうやらこちらは全部理解しているらしい。ううん大失敗、次からは気を付けようとリサは思った。
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