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3
今に至る経緯をぼんやりと思い出した所で違うそうじゃない、とリサは気を引き締める。
ここはある意味戦場なのだ、油断したらすぐに足元を掬われる。しかも敵の狙いはリサなのだから、開幕早々に――否、いついかなる時も負けるわけにはいかない。
さて来るなら来い! と臨戦態勢のリサであるが、その背に掛けられた声はとても可愛らしい物だった。
「リサ」
声と同時にそっとリサの腕に触れてきたのはだれであろう王妃・ティーアである。細く長い銀糸の様な髪を結い上げてニコリと微笑むその姿は、まさに妖精の姫君だ。
「あちらに美味しい果実酒があるの。わたくしはお酒の入っていないものをいただいたのだけれど、リサはお酒は大丈夫かしら?」
木の実のパイも美味しそうだったのよ、と小声で教えてくる王妃の可愛らしさといったら他に類を見ない。
母国の言葉を使うリサに王妃はすぐに懐いたが、それと同じく王妃の可愛らしさ、健気さにリサも速攻で転がり落ちた。我ながらチョロいなと思いはしたが、可愛いイキモノに抵抗などするだけ無駄であるので思う存分可愛がるつもりだ。
しかし現状ではそうもいかないのが辛い所でもある。ティーアは王妃でリサは寵姫。露骨に争う必要はないが、負の感情を一斉に引き受ける立場である以上あまり関わらない方がいい。だというのにティーアはリサの傍から離れようとしない。なんなら国王であるステンの傍にいるよにリサの傍にいる。
「王妃を寵姫に取られてしまったな」
ついにはクックと楽しそうに笑いながらステンがティーアを迎えに来た。
「我が寵姫に王妃はすっかり骨抜きだ」
「陛下の代わりに王妃様のご寵愛を受けるのもいいかもしれませんね」
「よろしいの!?」
リサは軽い冗談のつもりでそう口にしたが、ティーアは全力でそれに食いつく。ギョッとなるリサ、苦笑を浮かべるステン、そこに新たに加わる者が一人。
「いけませんよ王妃様。ロクでもない事を教え込まれるだけです」
「ディーったらすぐにそんなことを言うのね、リサはたくさんの言葉を知っているだけでなく、その土地のこともよく知っているのよ。話をしているとまるでそこに旅行したような気持ちになれるのに」
リサのドレスをそっと掴んだまま擁護してくれるティーアは天使でしかない。それに対して口を開けばリサへの苦言の多いこの男――ステンの護衛の騎士であり、そしてあろう事かリサの夫でもある。
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