第一 話 これ幸い

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第一 話 これ幸い

「行けたらいくー」 独り言を言いながらLIMEの相手に返信する姉を見て、こいつ絶対行かないなと思った。 この適当な生き方の姉に、幼少時代色々な場所に放っておかれたことを思い出す。 彼女の思考回路を理解することは一生ないだろうし、きっと母のお腹にいるときに人への思いやりという感覚を置いてきてしまったのだろうと思う。 まあ自分としてはガラの悪い姉のおかげでまともな方の息子というキャラクターで定着することができた。 僕はいわゆる養子というやつで、本当の子供ではない。 両親は人柄のいい人たちで、まだ幼かった自分を快く迎え入れてくれた。 奇声を発しながら近所の仲間たちと遊ぶ姉を見て、施設にいたヤバい奴らの誰よりも群を抜いているなと驚いた。 こともあろうにようやくできた姉がこれかとハズレくじを引いたような気分にもなったりしたが、彼女の両親、つまり僕の育ての親が絵にかいたようないい人たちだったので、それも打ち消されてしまった。 「(さち)はあなたのことがいずれ必要になる」 不思議なことが起こるものだなと思ったのは、母親にそう予言されたことがあったからだ。 幼いながらにどういう意味だろうと思っていたが、姉の幸は決断に迷うことが多々ある。 そんなときの彼女は決まって僕に助言を求めてくる。 「あんたならどうする?」 僕は適当に自分がいいと思った選択肢を勧めたり勘で答えたりすると、大体はいい結果に繋がるようで、姉から感謝され、両親からも笑顔をもらえていい気分になる。 姉のような精神の強さは持ち合わせていないが、彼女にちょっとした救いの手を差し伸べることが僕の使命なのかもしれないと思っていた。
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