スクープ1 テスト問題とアルバイト

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スクープ1 テスト問題とアルバイト

六月。 俺は中学一年になった、新しい制服はでかくて、まあ、三年間着るんだもん、大事にしよう。 小学校とは違って、中学の勉強は大変だ。 「尚―、現国」 同級生が背中から追いかぶさってきた。 「知らねーからな、現国、現国、ほらよ二百円」 プリントした紙は、あちこちから捨てられる羽目になったA4用紙の裏。広告やどこかの会社のコピー用紙等々。シュレッダーにかけなくてもいいような物を使っている。 「サンキュー、クリーニング屋の広告だ」 「毎度、あー裏が白い紙は捨てないで俺にくれよな」 あいよ、と手を振っている。 「杉本君…て君?」 なに? 「テストの山教えてくれるって」 あー。初めてだから、当たるかどうか? 「化学なんだけど」 あーほとんど暗記なんだけどな? それでもお願い。と頭を下げられた。 「二百円」とプリントを出した。 「金取るの?」 「当たり前だ、こっちは寝ないで、作ってんだ!」 「ちっえ」 「毎度、ただの方が怖いぞ」 ありがとーと手を振って行くやつ。 二百円をポケットに入れるとだいぶ重いのに気づいた。席に戻ると声がした。 「杉本、姉ちゃん」 振り返ると、廊下で手を振る絵美姉ちゃん。 なに? 「どう稼ぎは」 「まだかな、四千円ぐらいかなー」 「そんなもんかな、一年だし」 「ねえ、二年は?姉ちゃんとこ行くの?」 「当たり前、傾向と対策はしっかりとっとくのだよ、いいかね後輩」 「どれくらい稼いだ?」 「まあ中間だし、進級して初めてだし、二万、妥当よね」 「っすげ、マジかよ」 「あーいた、杉、二年の英語」 「今年多いな、はいな、二百円」 「サンキュ、これどこの会社の資料だよ」 知らない所の、裏には罰点がしてあって、そっちは使わないようにするんだけどさ。 「いいじゃん、毎度―じゃね、お金取られないようにね」 「わかってマース」 卒業した、豪ちゃん、それと兄ちゃんたち仲間から受け継いだことの一つ、テスト前の山の書かれたプリントの販売。 過去、十年間のテストをもらい受け、それからピックアップ、もちろん先生方は変わるわけだし、同じとは言えないが、だいたいおんなじものをぶっこんでくる。教科書の内容は大きく変わらないという事だ、だから授業はよく聞く。ここチェックな、とか、ここ出すよというところは要注意だ。 豪ちゃんはそれで学年トップだったんだもん、すごいよね、兄ちゃんの友達はみんな頭がいいし、いい友達だよな、学校違っても。 「杉本、数学売ってくれ」 「毎度」 小学校の時の奴らがそのまま中学へ、数人しらない子がいたけど、そこは、俺ら、商店街中心の仲間がいるという事で、仲はいい。 それと。 「チャイムなったぞー、席に就け」 この人、兄ちゃんの時の担任佐藤先生が俺の担任、これも運命かもな。 「運命?何、俺の事好きだってか?」 ポンと出席簿で頭を叩かれた。 「げー、きもいぜ」 「キモイのはいいが、あんまりあくどく稼ぐなよ」 「スゲー、尚、黙認かよ」 「黙認とは言わん、商売をするうえで、ちゃんとした契約をしなけりゃ、こんなことは認めん」 ニッと笑うとお金の入った巾着とプリントを取り上げた。 「あっ!」 じゃらっと音がしたが遅かった。やっべー。 「先生、契約って何ですか?」 「まさか、わいろとか?」 「コウ、俺それ一番嫌い」 「あ、そうだ、ごめん」 「でも先生、聞きたい」 「なんで、杉本君だけ、出来るの?」 「いや、そういうわけじゃないぞ、日直!」 起立、礼、着席。 「ここは何をしに来るところだ?」 勉強、スポーツ。そんな声がする。 「ねえ、教えてよ、へるもんじゃないでしょ」 「渡辺―、それは、へるかもしれんぞ」 「どうして?」 「これは没収、ほしかったら、反省文五枚な」 取り上げたお金とプリントを高々と上げた。 「卑怯―」 「卑怯なことあるか、契約には、授業中はしないとあるんだ、チャイムが鳴った時点で、机の上に出ていた、それだけでアウトだ」 契約? なんの? なんてざわめいた。 「えー」 「えーじゃねえの、さて、授業はさておき、少し、話をするか」 パシンと、教卓の上に、名簿を置きそれに片腕をついて話し始めた。 義務教育はあと三年で終わる、そうしたら、お前たちのほとんどは高校へ行くだろう。 だがな、世の中には、学校へ行かないで、就職する者たちも多くいる。そいつらは、お前たちより、三年早く、社会人となる。だが家庭の事情で、小学校の時から働いているものもいる、新聞配達がそのもっともだったが、今じゃスマホなんかで見れるようになって、時代とともに変わってきている。 今じゃ就労の十五歳以下と言ったら、まず声が上がるのが芸能人の子役だろうな? 俺の家、親せきである杉の会長(ああ、じいちゃんね)は、地域貢献のため、そんな子供たちを何とかしようと、自分たちの仕事を分けてくれた。それは、子供でもできる仕事、ただし、毎日じゃないと意味がない、そこで始めたのがペットの散歩や、お年寄りの家に毎日寄って、挨拶をする活動だ。 (へ―知らなんだ) だが、それもほとんどなくなってきてるな、世間体だのなんだって、親が隠したがる、不登校なんかもそれに関係していたりもするんだ、そこで、おおっぴらに、こいつらの家ではこんなことをしています、どうか、一人で考え込まないで、彼たちの力を借りてくださいっていうのに教育委員会まで巻き込んで、賛同したんだ。(へーすげーな) 「でもそれじゃあ、やっぱり杉本の所の特権じゃねえかよ」 「まあそうとも取れるな、本当なら、ライバル社でも出てきて、切磋琢磨して、この地域を盛り立てて、子供の数を減らさないでくれれば一番いいんだけどな」 みんなが言いたいことを言ってざわついている。 「さて、そこで、杉本の契約の話だ、今の話を踏まえ、こいつの義理の姉である、杉が三年にいる、彼女が入学した時にはすでに、このシステムがあった、もう十年以上も前からだ」 十年前?誰がやりだしたんだ?…ねえちゃんか? 「そんなに前からですか?」 「そうだ、そこで、俺たち教師ができないことを彼たちに請け負ってもらうことで、話が成立したんだ」 「できないことって何ですか?」 「俺たち教師は、本来、授業以外はしなくていいんだ、語弊があるな、公務員だから、というわけじゃないが、五時以降の就業に関しては、奉仕なんだ」 「部活とかはただで面倒見てるってこと?」 「そうだ、だから渡辺に言っただろ、減るかもということを、本来、給食費なんかの請求は、俺たちがしなくてもいい仕事だ、それに、お前らの母ちゃんからくる苦情なんかも出なくていい」 そうなのか? 知らねえよ。 「あー、わかった、部活に来てる、コーチなんかは卒業生や、父兄が多いのはそういうことか」 「お、加藤わかったようなこと言うじゃねえか、それら説明してくれ」 「エッヘン、それでは、だから、先生たちの残業を減らすために手伝ってくれている。以上」 「アウトだな」 「違うのかよ」 みんなが大笑いした。 「言っただろ、奉仕活動、五時以降の給料は出ない、したがって、残業代もない。でもやることは山のようにある。十年前、この学校で相次いで、先生方が倒れられてな、今でいう、過労死だ、それをなくすのがきっかけでもあったんだ」 そういや、そんな話してたな。 「杉本、お前が知ってるだけでいい、学校の中でやっている事話してくれないか?」 「会社での仕事のこと?」 そうだと言って、先生も自分の椅子に座った。 「んー、俺だけ?杉も」 「ごっちゃでいいぞ」 「それじゃあ、朝からでいいか」 横断歩道での誘導。 「それ、小学校じゃねえ」 「いや、中学も、腕章をつけた人はあちこちに立っている」 知らなかった。 花壇の整理、プール清掃、校庭まわりの清掃、特別教室の掃除などなど。 「先生、校庭や花壇は生徒もしています」 「それは一部だ、見てみろ、こんだけの敷地だぞ、親たちの力がなきゃ無理だ、昔はな、PTAに頼んで、年に二回、草むしりなんかを頼んでいたんだがな、親たちも、力を貸す時間があるなら、仕事に行きたいと言って、金で済ませようとする、そうなると業者を頼むことになる、だがその業者もピンキリ学校側は何を考えると思う?」 「そりゃ安くて働いてくれる会社」 「それが杉本のところだとしたら?」 「あー、納得、親が共稼ぎだ何だで、子供を学校に押し付けるから、先生たちも大変になって、結局は、お金で解決できる業者任せになる、その一切を受けてくれているのが杉本のところ、ということですね」 「そういうこと、だからと言って、何でもかんでもやらせてるわけじゃないし、このテストの山だって、見て見ぬふりをしているわけじゃない。でもな、これをすることで、杉本の先輩たちは、皆、テストじゃ学年上位で、高校もいい学校に行っている、大学もだ。だから、俺たちは黙ってみてるんだ、もし、これで、最下位層にでもいるようなら許してないがな」 「先輩たちって、一人じゃないの?」 「ああ、こいつの兄貴たちは、五人でごそごそやってたな、学年巻き込んで、これをやっていたのはクラスに、二、三人はいたな。まあ、弟もどこまでできるか、先生たちもちゃんと見てるし」 「先生、それチョープレッシャーなんだけど」 「ハハハ、頑張れ、兄貴や、豪たちみたいにいい学校へ行けとは言わないが、それなりのところ行けよ、さあ、これでいいかな、それじゃあ授業に入るか、教科書五十ページ」 絵美姉ちゃんも頭いいしな、俺も頑張らなきゃ。
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