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母は乳癌の診断を受けた。
小学6年生の時だった。
私は、中学受験を数ヶ月後に控えていた。
病院へ連日通う母に違和感を覚えながら、私は何事もないことを祈っていた。
ある日、母から「話がある。」と言われ、全ての検査の流れから、乳癌であると診断を受けるまで、ゆっくりと説明を受けた。
この日も雨が降っていた。
雷も鳴るような、到底心地良いとは言えない雨だった。
正直説明を聞いても、幼い私には細かいところまではわからなかった。
ただ、母の「初期段階だから、すぐに死ぬことはない。」との言葉に、けし粒ほどの安堵感を抱いたのを覚えている。
母は言葉を紡いだ。
治療法もまだ決まっていない。
放射線治療か、薬を投与するのか
それとも、先を見据えて再発の可能性が低い部分的な摘出か。
どちらにしろ、再発の可能性は0ではない。
まずは3年。
3年間何もなければ、再発や転移の可能性は低くなるのだと。
母は「まだ迷っているから、結論が出たらまた話す。」と言った。
心配をかけたり迷惑をかけたりもするかもしれないと。
「私なら、大丈夫だから。」
私はそれしか言えなかった。
本当はもっと何か言いたかった。
何か私に出来ることはない?
大事なことだから、ゆっくり考えていいよ。
家族なんだし頼ってよ。
一緒に病院に行こうか?
………
お母さん、死んじゃやだよ。
頭の中で言葉が溢れて止まらない。
でも
そんな小さな言葉たちですら
当時の母には重荷になる気がして
説明の半分も理解しきれていない
年齢も精神も未成熟な私には
母の小さくなった背中ですら
支えられる自信などなかった。
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