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2話 秘密のお茶会
翌日、わたし達は及川さん達のクラスに足を運んで、文芸部と演劇部の交流会をしたいと提案を行うと、彼女達は目を輝かせて了承をしてくれた。日程を調整し、及川さん達が部室に音連れた日から二日後のことになった。場所は高岡さんの家のテラスでのことであった。学校が終わり、わたし達は校門で待ち合わせをし、高岡さん宅へと足を運ばせた。そこはアニメに出て来そうな水色でおしゃれなお家で、テラス近くの花壇にはキレイな花が咲いていた。
「美優ん家、すごいでしょ。美優、ザお嬢様だからね」
「はい。とてもおしゃれですね。なんだか小説やアニメに出て来そうですね」
「へぇ、川原さん、アニメとか見るんだ」
「え、えっと、近所に住む男の子を預かるときがあって、そのときに」
「川原さんに遊んでもらえるなんて幸せだろうなぁ」
「そ、そんなことないですよ」
テラスのテーブルを囲って、お茶会が始まった。
わたし、つぐみ、及川さん、高岡さんという順番だ。わたしと及川さんが、そしてつぐみと高岡さんが向かい合わせになるように席順を組まれていた。
「ごめんね。こっちが席順を組んじゃって」
「いえいえ。こちらとしましても、省けるところ省けられたので助か絵いますよ」
「松嶋さんって、意外と面倒くさがる人?」
「何をおっしゃります高岡さん。あたしは単純にあなた達が信用出来るかを見定めに来ただけですよ」
「そう。なら信用してもらえるよう、がんばらなきゃだね」
つぐみの言葉に、高岡さんはクスクスと笑みを浮かべた。
本当にお人形のような人だ。高岡さんが笑うと、自然と周りがふんわりとして、野花のようにやさしくキレイに咲いているように見える。演劇部に置いて、お姫様と呼ばれるに相応しい人なんて左に出ることはないんじゃないかと思わされてしまう。わたしがこの人のとなりに座っていてもいいのかどぎまぎしてしまう。
「川原さん、どうしたの? 顔が赤いけれど」
「だ、大丈夫です。少し緊張してしまって…」
緊張で高鳴っていたわたしを心配してか、及川さんが顔を覗かしていた。
同級生の家に行くだなんてつぐみん家ぐらいで、他の人の家に行くのはほとんど初めてかもしれない。その考えを持つと余計に緊張をしてしまう。わたしは用意された紅茶を慌てて飲んでしまい、熱湯のまま口の中に入り、咽てしまった。すぐにつぐみがわたしに水を差し出して、背中を摩ってくれていた。わたしは申し訳なさを感じながらも水を少しずつ口に入れた。
「す、すみません。そ、そのそそっかしくて」
「いやいや、川原さんの意外な一面を見ることが出来て嬉しいよ。川原さんって、大人しいというか、少しミステリアスな印象があったから」
「ミステリアスだなんて滅相もございません。ただの人と関わることが苦手なだけの小心者です」
「へぇ、でもそんな感じがする。見かける度、川原さんって体を縮こまっている印象があるね」
「そう…ですね…」
及川さんが言う通り、わたしはよく体を縮こませてしまう。自分に自信を持つことが出来ていないという証拠だろう。わたしは赤くなった顔を隠すようにうつむいた。恥ずかしくて顔から火が出そうなくらいに熱い。そんな顔を見せるわけにはいけない気がする。
「そんなに緊張しなくてもいいんだよ。わたし、川原さんとお話しをしてみたかったの。だって月をも恥じさせる華とも言われている人だもの。本当に可愛らしい人で、びっくりしちゃった」
「そ、そんな。わたしなんて、一般庶民です。月をも恥じさせる華だなんて、過大評価をし過ぎだと思います」
「謙虚ね。だけれど、あなたは自覚をすべきだわ。自分が持つ魅力とか」
高岡さんが放つ雰囲気に、わたしは返す言葉がなかった。
どんな言葉で返しても、高岡さんには敵わない気がしたからだろうか。わたしは情けなくて自身のスカートを握り締めていた。
「高岡さんさ、葵をイジメたいわけ? 脚本を受けるか受けないかを判断するためのお茶会なんじゃないの?」
「あら、ごめんなさいね。別にイジメている気はなかったのだけれど、気を悪くさせてしまったのならば、ごめんなさいね」
「確かに葵は自分に自信が子だけれど。昨日今日話しただけのあなたに語られるほど安くないんだよ。この子は」
「川原さんには、結構過保護なのね。松嶋さんは」
「別に過保護にしているわけじゃない。あたしはただ親友を守りたいだけ」
「クールな印象だったけど、結構熱い人なのね松嶋さん」
「だから別にそんなんじゃ…」
戸惑うつぐみの手を、そっとわたしは優しく掴んだ。
いつも皮肉屋だけれど、すぐそばで寄り添って守ってくれているのはつぐみだ。感謝してもしきれないぐらいだ。臆病なわたしをいつも陰ながら支えてくれている。わたしの大切な親友だ。いつまでも一緒にいてほしいと思ってしまうときがある。
「つぐみありがとう。そこまで怒ってくれるの、すごく嬉しいよ」
「葵…」
表情が曇ったままのつぐみにわたしは優しく笑みを浮かべた。つぐみがこんなにも感情を露わにするのも珍しい。だからこそ、わたしが彼女の手を取ってあげたい。小さくてでも少しだけ大きな手を温めてあげたい。
「ごめんねつぐみ。いつも頼りなくて」
「別に頼りないから一緒にいるわけじゃないから。純粋にあんたと親友をやっているんだから」
「わかってる。わたしが苦手なところをやってくれているから、現在(いま)のわたしがいるの。本当に助かってるよ」
「もっと感謝しなさいよ。ただでさえ人前で話せなくなることが多いんだから」
二人目を合わせて、クスリと笑った。
つぐみがいなければ、こうして高岡さんの家に来ることもなかっただろう。感謝してもしきれないぐらいだろう。これからも支えてほしいし、支えて行きたい。
「なんだか二人の友情は本物って感じだねぇ」
及川さんはすごく感心している様子で眺めていた。
及川さん達の存在をほんの少し忘れてしまっていて、恥ずかしいところを見られてしまった。だけれど、悪い気はしない。つぐみがどれだけわたしのことを大切にしてくれているかを再認識をすることが出来たのだから。それだけでもすごく嬉しいことだ。
「ねぇ、つぐみ」
「もういいよ。葵が言いたいことはわかっている。好きにすれば。これで川原葵の名前が悪い意味で広まらないことを願っているけど」
「ありがとう。やっぱりつぐみがいると決断しやすいよ」
「別にあたしは何もしていないわよ。葵が自分で決断したんでしょ」
つぐみは微かに顔を赤くし、そっぽ向いた。
相変わらず素直じゃない人物だ。だからこそ、わたしの自慢の親友だ。
わたしは及川さん達に目を向け、自分の答えを告げた。
「及川さん、わたしやってみます。うまく出来るかはわからないけれど、わたしでよければ、挑戦させていただけませんか」
「川原さん、あたし達も出来ることなら協力するから、一人で抱え込まなくても大丈夫だから」
「わかりました。詰まったら相談しますので」
「それとさ。敬語やめない? あたし達、同級だしさ」
「そ、そうですね…、あっ」
四人揃って、クスクスと笑った。
こうして、気軽に複数人で笑い合えるだなんて夢のようで楽しい。それがとても嬉しくて幸せのように感じていた。自分の世界が少し広まったように思える。それだけでもすごいだ。再び、わたし達はお茶会を始めた。自分達がどんな風に出会ったのか。小説を書くきっかけはなんだったのか、どうして演劇を始めたのか。些細なことも話し、楽しい時間が流れて行った。こんなにも笑い合えるだなんて、本当に夢のように思える。気がつけば、もうすでに日が暮れていた。高岡さんが車を出してもらおうかと言ってくれていたけれど、歩くのが好きだからと断らせていただいた。及川さんは近所だからと門のところで解散となった。星空の下、つぐみと共にのんびりと歩いていた。こうして二人で歩いてるのが、とても心地よくて安心することが出来る。つぐみは、わたしにとってもったいないぐらいの親友だ。クールではっきりとした性格から誤解されやすいけれど、根は優しくてよく気配りが出来るとてもいい子だ。風は冷たいはずなのにとても心地よく感じる。わたしはそっと横目でつぐみを覗き込んだ。本人は、澄んだ顔で何かを考えている様子でいた。これからの予定のことを考えているのだろうか。そのときは安易に声をかけてはいけない。そうしてしまうとつぐみは頭の中をこんがらかせてしまいいじけてしまう。しばらく口をきいてくれなくなってしまう。だからわたしは声をかけず、静かにとなりを歩いていた。少しそのままでいるととなりから静かにクスクスと笑う声が聞こえた。他の誰でもない。つぐみだ。
「何よつぐみ。急に笑い出して」
「いや、声をかけたいけれど、考え事をしているからやめようとしている葵が可笑しくてね」
「失礼な。いつものつぐみだと、しばらく口をきいてくれてなくるからじゃない。だから気を利かせたのに…」
「ごめんごめん。頭の中でスケジュールを整理してただけだからさ」
「うん。つぐみ、いつもありがとうね。頼りないわたしといつも一緒にいてくれて」
「本当だよ。発言するの苦手だわ、頼まれたら断れないし、本当に大変なんだからね」
「本当に面目ないです」
申し訳なく肩を落とすと、よりつぐみは声を出して笑っていた。もっと笑った表情をみんなに見せればいいのにと思ってしまう。しかし彼女の群れることはしないというポリシーを否定したくはない。彼女がわたしのことを認めてくれたように。
「葵」
「何、つぐみ」
「明日から演劇部との打ち合わせが入ってくるからね」
「わ、わかってるよ…」
「本当に? ときどき葵は抜けているからなぁ」
つぐみは、イジワルな視線を向けて笑みを浮かべた。それをやられると、わたしは唸ることしか出来なかった。でもいつもの日常のようで、なんだかとても楽しく思える。この楽しい時間が永遠と続いて行けばいいのにと密かに願っている。いつまでもつぐみと親友で、小説の話しをしたり、何げない会話をしたり、大人になってもそれが出来たいいのに。まだ十七にもなっていない未熟なわたし達。人生の選択とかでぶつかることもあるだろう。それでもわたしはもっとつぐみと一緒にいたいと願うのは可笑しいことだろうか。
「葵さ。いい加減スケジュール表とか持ったら」
「わかっているんだけど、なんだかちょっと…」
「何よ」
「もう子どもじゃないって感じがして、寂しくなっちゃうんだよね」
「気持ちはわかるけれど、体つきからしたら、あたし達は大人なんだからね。その自覚はお持ちかしら?」
「それはその…。自覚は…ありますとも」
「まったくも。ならもっと自覚を持って頂きたいわね。ただでさえ幼げな容姿をしているんだから」
「…言い返す言葉もありません」
つぐみとは言い合いで勝てることはないだろう。わたしは脱力するように肩を落とした。そんなわたしにつぐみはよしよしと撫でてくれている。普段みんなの前で見せないクセに、二人っきりのときにだけわたしを妹のように接してくる。
――一番、わたしを子ども扱いしているのつぐみじゃない。
悔しくて情けない気持ちはあるけれど、何故だか暖かくて心地よく感じている自分がいる。わたし自身、彼女のことを姉のように感じているからだろうか。ずっと一緒にいてずっととなりにいてくれているから信頼をすることが出来る。
「つぐみ、頼りないかもしれないけれど、これからもよろしくお願いします」
「葵の親友なんて、あたししか出来ないでしょうが」
二人で笑い合った。
桜の花びらが風に流されて飛んでくる。わたし達はその花びらを見て、お互いに顔を見合わせ帰路へ就いた。
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