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1.若手俳優
自分が俳優向きだと思ったことはない。
けれど、この仕事は嫌いじゃなかった。
そんなことを考えているのには訳があって。突然マネージャーに呼び出されたはいいものの、ちょっと待っててと言われ、放置されること三十分――。暇なのである。
ミーティングルームのラックにある雑誌を適当に一冊ひょいっと手に取ると、丁度自分の載っているファッション誌だった。つるつるの紙面に印刷された「若手俳優、花房伊都」のグラビアはそれなりに芸能人らしく見える。
やるじゃん自分。
オールバックで黒いシャツ、ポピーの花を胸元に持って少しだけ笑う。香水瓶を傾けるしぐさも、カメラマンの指導のおかげで中々様になっていた。
『花房さんの結婚観!』
インタビュー内容を斜め読みする。そう、オメガ相手にずけずけ聞くなあ……と思ったんだった。自分だったからいいものの、相手によってはセクハラになりそうだとハラハラした取材だった。今は、オメガハラスメント――略してオメハラにも厳しいご時世だ。
過去の自分は、人当たりのよさそうな笑顔で、
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