二本の蟹の足

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 高校からの帰り、地元の駅に着くと道端に蟹の足が二本落ちていた。  周りの人は気にもとめなかったが、私は気になって気になってしょうがなかった。なぜかって? だって普通こんな所に蟹の足は落ちていない。  私は考えた。もしかしたら、蟹を買ったお客さんが落としていったのかもしれない。  しかし、箱に入っていた蟹の足が落ちることほぼないだろう。では、蟹をスーパーの袋にそのまま入れたのだろうか。ネギが飛び出しているのはよく見かけるが、蟹の足が飛び出しているのは見たことがない。この可能性はなさそうだ。  もしかしたら、誰かが食べ終わった蟹をポイ捨てしたのかもしれない。  しかし、普通こんな道端で生の蟹を食べるだろうか。私は蟹には詳しくないが、多分この蟹はズワイガニか何かだ。そんな高級なものを駅の前で食べるだろうか。これも違う気がした。  もしかしたら、動物が運んできてしまったのかもしれない。  しかし、一体どこから?この町は海からは遠いし、寿司屋なんかない。唯一考えられるのはスーパーの鮮魚コーナーだが、スーパーで蟹の足のゴミは出ない気がする。そもそも蟹の足を口で咥えたら痛いはずだ。だからこの可能性も少ない。  私はしばらく首を傾げていたが、考えても考えても答えは思い浮かばなかった。  私は、とうとう、もしかしたら、これが見えているのは私だけなのかもしれない。という考えにたどり着いた。  しかし、それを確かめる術がない。ここは駅前だ。人もそこそこ通る。駅の前で立っているだけなら待ち合わせか何かだと思われるだろうが、さすがに落ちている蟹を触ったら変だと思われる。むしろ、私だけにしか見えないなら急に地面を触り始めるおかしな人になってしまう。  私は気になって気になってしょうがなかったが諦めて家に帰った。  次の日、いつものように駅へ向かうと二本の蟹の足はなくなっていた。  もしかしたら清掃員の人が掃除したのかもしれない。もしかしたら誰かが拾ったのかもしれない。もしかしたら……  これ以上考えてもキリがないので私はもうこの蟹について考えるのをやめた。
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