音響担当

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音響担当

 さやかのゴリ押しで、私は演劇部の夏の大会用の戯曲で音響係に加わることになった。 「よ、宜しくお願いします」  放課後の体育館の舞台上、高1、2年の部員23名の視線が一斉に私へ向かう。さすが演劇部、アイドル並みに可愛い女の子もいる。アウェーにも程がある、高2の6月に急遽入ってくる新参者を受け入れてくれる気がしない。 「の親友の知里さんだね、宜しく。僕は部長の(ひいらぎ)です、同じ高2だからタメ口でいいよ」  部員の中で人より頭2つ分背の高い男子が、やんわり細面を緩ませて私を見た。さやかは部内の愛称〈ミント〉と呼ばれている。 「いつもミントが自慢しているよ、音を聴き分ける天才だって」 「そ、そんな」 「そうだよー、知里はすごいんだから! なんたって絶対音感あるんだもん」  こちらの否定を秒速で打ち消された。すると、 「絶対音感ってすごいね! いつから聴こえるの?」 「生活音がドレミで聴こえるって本当?」  俄に、他部員が興味深そうに質問してくる。慌てて一つずつ応えると、わぁあ、と皆が歓声を上げる。リアクションの大きさに驚いて閉口していると、  公家顔の柊部長と満足げなさやかが並んで、それぞれ外側の腕を広げて私に差し出し、決めポーズした。 「ウェルカム演劇部」
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