雨が聴こえる

3/3
前へ
/13ページ
次へ
「別に凄くないよ」 「え、何で? めっちゃ凄いよ! 私初めて会ったよ、絶対音感ある人!」 「早く走れる方が凄いよ」 「そんなことないよ、知里ちゃん凄い!」  しきりに褒めてくるので、反論する気もなくなってしまった。さっきまで晴れていた空が灰色の雲に覆われて、体操服の半袖から出した腕が湿度を感じる。数秒後に雨が降ってきた。  校舎へとクラスメイト達が急いで駆け込んで、グラウンドには誰もいない。残された徒競走の白いコースラインが、雨で滲んでいくのを私はぼんやり眺めていた。  中学も同じ学区、たまたま通知表の成績も近かった私達は桐明(とうめい)高校へ一緒に入学した。 「これで思う存分、お芝居が作れる!」  受験勉強中に宣言した通り、さやかは演劇部に入部した。中学校は公立のせいか演劇部がなく、ミュージカルが大好きなさやかはいつも不満そうだった。  だから、大いに羽根を伸ばす姿は自由に満ちていて、帰宅部の私は隣で見ているだけで嬉しかった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加