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「別に凄くないよ」
「え、何で? めっちゃ凄いよ! 私初めて会ったよ、絶対音感ある人!」
「早く走れる方が凄いよ」
「そんなことないよ、知里ちゃん凄い!」
しきりに褒めてくるので、反論する気もなくなってしまった。さっきまで晴れていた空が灰色の雲に覆われて、体操服の半袖から出した腕が湿度を感じる。数秒後に雨が降ってきた。
校舎へとクラスメイト達が急いで駆け込んで、グラウンドには誰もいない。残された徒競走の白いコースラインが、雨で滲んでいくのを私はぼんやり眺めていた。
中学も同じ学区、たまたま通知表の成績も近かった私達は桐明高校へ一緒に入学した。
「これで思う存分、お芝居が作れる!」
受験勉強中に宣言した通り、さやかは演劇部に入部した。中学校は公立のせいか演劇部がなく、ミュージカルが大好きなさやかはいつも不満そうだった。
だから、大いに羽根を伸ばす姿は自由に満ちていて、帰宅部の私は隣で見ているだけで嬉しかった。
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