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雨が聴こえる
「本物の雨の音を見つけて欲しいんだ」
水戸さやかが力強くそう言い切ると、自分が数秒前の断言に確信があるのか、つぶらな目をキラキラ輝かせて「知里なら、絶対に見つけられるから!」と続けた。
「……雨の音かぁ」
「そう、正真正銘の雨の音ね」
程よい睡魔に襲われそうな2年E組の昼休み、お弁当を食べているとアスパラベーコン巻を指揮棒みたいに掲げながら、さやかが力説する。窓の外に広がる梅雨入りしたばかりの空はどんよりと曇っている。今にも降り出しそうだ。
「言ってしまえばさ、普段聞いているザーー、とかポツポツ、とかの雨音はただの落下音でしょ?」
「まぁそうだね。地面や屋根に衝突した水滴の音、だね」
「そうそう! さすが知里、話が分かるなぁ」
「褒めなくていいから。それで?」
「だからね、その衝突音じゃなくって、雲から落ちていく雨の音を表現したいんだ、今度の劇では」
どうりで力説するわけだ。演劇部でさやかは舞台演出を担当している。机に乗り出すあまり、アスパラの穂先がお箸に挟まれたまま頭を垂れているのを心配していると、さやかが一口で攫っていった。
「私、……部外者だけどいいの?」
「いいのいいの、こういうのは特別顧問が必要だから」
「うーん」
「門限に間に合うようにするから、ね。知里、お願いできないかな?」
「……うん、分かった。さやかのお願いなら」
「やった♪」
ご機嫌は絶頂に達したようで、さやかの声が半音上がる。すると、窓に小さな透明の雫が落ちてきた。やっぱり降ってきた。
「ねぇ知里、やっぱり聴こえるの? ーーどんな音?」
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