記憶の片隅にある雨雲

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帰り際もまだ雨は続いていた。 朝に比べれば小雨になったのだろうけど、ビニール傘の中にいればポト、ポト、ポト。一定間隔で音がする。 『雨の日はこうやって歩けば楽しいのよ』 子供用のレインコートを着て黄色い長靴で水たまりを踏む私。大きめの傘をさして楽しそうに笑うお母さん。 よく一緒に雨の日にも散歩したものだ。 もう何十年前のことを思い出しても仕方ないのに。 邪魔される思い出をどうにか遮りたくて、おもむろにどこか遠い所に行きたくなった。 小銭入れを路上で出して、中を確認した。電車賃だけで使うならいくらでも遠いところに行けそうなほどある小銭を確認してから駅に向かって歩いた。 駅について路線図の終着点まで切符を買った。電車で一時間弱くらいかかる。もちろん、そんなとこ行ったことないしどんなところか聞いたこともない。今はそんな知らない場所を求めていた。 電車が来るまで外界の音を遮断するためにイヤホンを耳に挿した。好きな音楽をアナウンスが聞こえる程度に流して、ホーム下にいる人間を眺めながら数分待った。そして私鉄に乗り込んだ。 1時間ぐらいは経っているのに、まだ目的地にはついてなかった。なのにさっきから電車は停車している。 車内がなんだなんだと騒ぎ出した。少ししてからアナウンスが入った。 それは私の予定を狂わせた。 「人身事故の影響で只今運転を見合わせております──」 車内で電話する人や怒り出す人や困り果ててる人が大勢だ。大抵の人は帰りが遅くなると連絡していた。それら全てが、いつ発車し始めるか分からないということを物語っていた。 外はもう薄暗い。雨雲のせいでいつもより外が暗くなるのが早く感じる。 私も連絡しておこうかなと思って携帯を出したが電池が5%を切っていた。先程から音楽を流してたから気づかなかったが残量が少なかったみたいだ。今朝、充電するのを忘れていたのを今思い出してももう遅い。 それから電車が進み出したのは二時間後だった。当たり前に外は真っ暗だし、何より問題なのが帰りの電車がない。今日はこれ一本のようだ。 自分から知らないとこに行こうと決めたくせに、帰れないことへの不安、今日の行動に後悔など無駄なことが頭に思い浮かんだ。 例えば小銭入れに電車賃がなかったとして、ほかの駅に飛ぶことを諦めていたらこんなことなってなかったのに。もう後悔しても遅すぎる。 いよいよ目的が分からなくなってきたが、電車は終着点まで客を乗せた。
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