友達じゃいられない

9/11
前へ
/11ページ
次へ
「ああ、そういうことか。そうだよな、気持ち悪いよな、こんなの」 「違うっ! 想太に笑顔を向けてもらえないのなら、友達でなんかいたくない」  傘の中に入った。想太を引き寄せ、唇を唇に押し当てる。離れると、想太が目を見開いていた。  傘の中で聞く雨音は、増幅されて、ざあっという音に耳が支配される。他の音は聞こえない。世界はこの傘の中だけ、という錯覚に陥る。 「……なんだよ。オレへの情けならやめろ。虚しくなる」  想太が顔を背けた。 「違うよ。俺は『情け』で友達にキスしたりなんかしない。想太は嫌だった?」  想太は無言を貫いた。 「俺は、嫌じゃなかった。正直、まだお前に恋愛感情があるかって聞かれたら、『うん』って即答はできないけどさ、でも、想太が好きだ。想太には泣いていてほしくないって思った。ずっと笑っていてほしい。作った笑顔じゃなくて、心から笑ってほしい。これって、そばにいたい理由にならない?」 「……ならないよ。翔吾が求めているのは友人。オレが求めているのは恋人。ぜんぜん違う」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加