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雨はあの匂いも消してくれる。
あの陽に焼けた土の匂い。埃と汗の混じった、乾いた匂い。
チャイムが鳴って、碧が神楽の席を見ると、神楽はちゃんと席に戻っていた。神楽も碧の視線に気が付いて、小さく手を振ってきた。碧も小さく手を振り返す。
この分だと、今日は気分が悪くなることはなさそう。
晴れた乾いた日に、碧はよく気分が悪くなる。体育の後が多い。あの学校特有の、汗と埃と土の混ざった匂い。あれを嗅ぐと、碧は気分が悪くなり、血の気が引いてしまう。
しゃがみこんでしまったり、悪くすれば、倒れてしまう。
そのたびに、双子の兄である大翔が呼ばれ、碧を保健室に連れて行ってくれる。
その時の大翔の心配とうんざりが混ざったような顔に、申し訳なさと腹立たしさを足して二で割ったような気持になる。
だけど、だいたいは大翔には感謝している。
大翔以外に面倒をかけることを思えば、本当に自分に片割れがいて良かったと思う。
自分がどうしてこうなるのか、碧には分かっていた。
自分が分かっていることを、碧は誰にも伝えていなかったが。もちろん、大翔にも。
大翔は覚えていないから。
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