ふたりの記憶  理想的な家族7ー碧

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 雨はあの匂いも消してくれる。  あの陽に焼けた土の匂い。(ほこり)と汗の混じった、乾いた匂い。  チャイムが鳴って、碧が神楽の席を見ると、神楽はちゃんと席に戻っていた。神楽も碧の視線に気が付いて、小さく手を振ってきた。碧も小さく手を振り返す。  この分だと、今日は気分が悪くなることはなさそう。  晴れた乾いた日に、碧はよく気分が悪くなる。体育の後が多い。あの学校特有の、汗と埃と土の混ざった匂い。あれを嗅ぐと、碧は気分が悪くなり、血の気が引いてしまう。  しゃがみこんでしまったり、悪くすれば、倒れてしまう。  そのたびに、双子の兄である大翔(ひろと)が呼ばれ、碧を保健室に連れて行ってくれる。  その時の大翔の心配とうんざりが混ざったような顔に、申し訳なさと腹立たしさを足して二で割ったような気持になる。  だけど、だいたいは大翔には感謝している。  大翔以外に面倒をかけることを思えば、本当に自分に片割れがいて良かったと思う。  自分がどうしてこうなるのか、碧には分かっていた。  自分が分かっていることを、碧は誰にも伝えていなかったが。もちろん、大翔にも。  大翔は覚えていないから。
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