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雨音を聞いて、いつも思い出すのは彰久との思い出の歌だった。
売れない自称シンガーソングライターだった私は、駅近くの公園で毎晩歌っていた。
客なんて誰も居ない。たまに酔っ払いが通って、「うるさい!」って罵声を浴びせられる以外は、こんなに大きな声で歌っているってのに、誰からも無視されていた。
ある夜、雨が降ってきた。
ずっと、どうしていいかわからなくなっていた私は、びしょ濡れになって泣き出してしまった。
それでも私は、歌をやめなかった。泣きながら、独りで歌っているとき、彰久に声をかけられた。
「大丈夫ですか?」
「……別に、雨の中で歌いたい気分なんです。放って置いて下さい」
私は、雨で涙が流れるから誰にも気づかれないと思っていた。だけど、彰久は。
「でも辛そうですよ。泣いてますよね?」
そう言って、心配そうに微笑んだ。
その時、耳心地よい雨音が、私の中に響いて、ふとびしょ濡れのまま思いつくままに歌った。
あの夜の、雨音のリズムのままに。
私がこの日歌った曲を、そのあとしっかりと作り直してレコーディングしたら、驚くほどのヒット曲になった。
もちろん、今までの私にしては、って言葉がつくけど。
それでも。
あの雨と、声をかけて、私を見つけてくれた彰久がいなかったら生まれなかった曲だ。
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