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雨音の記憶
パラパラ…と頭上で響き続ける、雨粒がトタンの屋根を叩きつける音……。
そんな雨音を聞くと、僕はあの日の体験をどうしても思い出してしまい、ぞわぞわと全身に怖気が走るのを止めることができません。
あれは、僕がカノジョとのサイクリング中、不意の通り雨にあった時のお話です……。
当時、僕とカノジョは週末になると、共通の趣味であるサイクリングによく出かけていました。
走る場所は決まって長閑な田舎の小さな村。自転車をたたんで一緒に電車へ乗り込むと、ローカル線で聞いたこともないような無人駅で降り、その周辺の田舎道を巡っては、また電車で帰るということを繰り返していました。
その方が決められたサイクリングコースやよく知られた観光地、また人口の多い都市部や逆に人気のまったくない山道を走るよりも、よりいっそうおもしろい景色が見られるからです。
その日も、とある地方の打ち捨てられたかのような無人駅で降りた僕らは、長閑な農村の景色を眺めながら自転車を走らせていました。
田園風景の中、まばらに建ち並ぶ昔話のような茅葺き屋根の家々……くたびれたバス停留所の待ち合い小屋や今時珍しい木製の電信柱……時に見かける農作業小屋の壁に貼られた、昭和な香りのするホーロー看板……相変わらずの普段は見られないその景色に、僕らはサイクリングを存分に楽しんでいました。
「……ん? 降ってきたかな?」
ですが、そんな折、ポトン…と大粒の雫が僕の顔に当たり、続けざま、すぐに二つ目、三つ目も落ちてくると、あれよあれよという間にバラバラと降り注ぐ大量の雨粒で道はすっかり濡れてしまいました。
まだ夕立の時刻には早いですが、運悪くも通り雨に遭ってしまったみたいです。
「いや、こりゃすごいな……どこかで雨宿りしよう!」
雨具を持ってはいましたがあまりの降り様に、激しい雨音に負けぬよう、僕は大声を張りげてカノジョに訴えます。
「あ! あそこに家があるよ!」
すると、一緒に辺りを見回していたカノジョが、そう言って少し場所を指差しました。
見れば、田舎道の傍らに古い一棟の民家が建っています。もとは茅葺き屋根の純和風建築だったものに、赤く錆びたトタン屋根を乗せて改修した、田舎ではよく見られる典型的な農家の邸宅です。
ただ、その周囲には背の高い雑草がぼうぼうに生えたままとなっていて、どうやら空き家のような感じがしています。
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