雨音の記憶

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「ああ! あそこの軒を借りよう!」  ぐずぐずしていては濡れる一方なので、僕らは即決すると、すぐにその家へと向かいました。 「やっぱり誰も住んでないようだな……」  近づくと、ガラス戸も埃だらけになって燻んでおり、やはり長年、人は住んでいないような雰囲気を醸し出しています。 「裏に回ってみよう! 縁側に座れるかもしれない!」  空き家ならばますます好都合。僕らは遠慮なく敷地内へ自転車を押して侵入すると、その民家の裏手へと回り込みました。  背の高い雑草を掻き分けながら進むと、同じく草ぼうぼうに放置された裏庭に面して、案の定、家の廊下には縁側が設けられています。 「悪いけど、お邪魔させてもらおう!」 「近くにいいとこあってラッキーだったね!」  他人(ひと)の家に断りもなくではありますが、背に腹は変えられません。上に溜まった泥や埃を払い除けると、僕らはそこに腰を下ろし、しばらく雨宿りさせてもらうことにしました。  古ぼけた木製の縁側にちょこんと座る僕らの頭上では、トタン屋根の(ひさし)に当たる雨音がパラパラ…と響き渡り、水晶の如く光る雫が一定の速度を保って目の前に滴り落ちてきます……。  騒音と思って聞けば騒音ですが、ずっと鳴り続けるトタン屋根の奏でる雨音に、その他の音はすべてかき消され、むしろ静寂の中にいるかのような、どこか心落ち着くひと時にそれは感じられました。  ところが、その時。  ガタン…! と、何かが倒れる大きな音が、突然、背後の家の中から聞こえてきたんです。 「な、なんだ今の?……誰かいるのかな?」  僕らは驚いて振り返ると、埃で曇った廊下のガラスサッシから、目を凝らして中の様子を覗いました。  しかし、箪笥やら時計やら生活用具はいまだ残されているようなのですが、やはり人の気配というのはまったく感じられません。
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