雨音の記憶

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「ねえ、ちょっと見に行ってみようよ」  と、僕がその音を(いぶか)っていると、となりのカノジョが不意にサッシへと手を伸ばしました。 「……え? いや、空き家でもさすがにそれは…」  予想外のその動きに一瞬遅れて止めようとする僕でしたが、カノジョは土足のまま縁側へと登り、すでにサッシを開けています。  さらに予想外に運悪くも、サッシに鍵はかかってなかったんです。 「ちょ、ちょ、ちょっとよくないって! 不法侵入だよ?」  慌てて静止する僕の声も耳には入らず、カノジョはズカズカと屋内へ踏み込んで行ってしまいます。  確かに普段から好奇心旺盛な性格でしたが、旅先ということがそうさせるのか? されにしても大胆すぎる行動です。 「ああもう! ちょっと待ってったらあ!」  あっという間に奥まで進んで行ってしまうカノジョに、仕方なく僕も後を追うことにしました。 「お、お邪魔しまあ〜す……」  誰も聞いていないとわかっていながらも、ひそめた声で断りを入れてから、僕もカノジョの開けたサッシの隙間へと身体を滑り込ませます。  サッシの裏は縁側から続く廊下になっており、正面にはビリビリに敗れたり、黄色いシミのついた障子が開け放たれた状態にされていて、その向こうは畳敷きの居間になっています。  長い間、ずっとこの家の中に滞留していたものなのか? そこに充満する空気はいやに生暖かく、臭いでもわかるほどに埃っぽいものでした。 「……あれ? どこ行った?」  そうして屋内の様子を観察しつつ、カノジョの後を追う僕でしたが、さらに奥の座敷を抜け、反対側の廊下を左に曲がったカノジョの姿がどこにも見当たりません。
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