雨音の記憶

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「もう、どこまで行くつもりだよ……」  縁側とは反対にあるその廊下は、右側へ行くと玄関、左側へ行くと風呂場や台所があるような感じに見受けられます。  当然、僕も彼女が曲がった左側へと歩を進めました。 「…!」  ところがその時、廊下の奥にかかった昭和レトロな〝玉暖簾(たまのれん)〟の隙間に、見ず知らずの女性が立っているように見えたんです。  無論、いるとすればカノジョのはずですし、それは一瞬のことだったんですが、その女性は赤いカーディガンに茶のスカートを履いていて、蛍光ピンクのウィンドブレーカーを着た、アウトドア系ファッションのカノジョとは明らかにシルエットが違うんです。  それにこの家の中で見るせいか、どこか古めかしい服装をしているような気もします。 「あ、あのう……どなたかいらっしゃいますかあ? 勝手にお邪魔しちゃってすみませえーん……」  一瞬見えただけですぐ壁の影に隠れてしまったため、僕の見間違えという可能性の方がむしろ高いのですが、それでも空き家じゃなく住民の方がいては大変なので、僕はそんな声をかけながら、恐る恐るその台所へと向かいました。 「あれ? いないな……」  ですが、ジャラジャラと音を立てて玉暖簾を潜り、その部屋を見回してみても人影はありません。先程の女性はもちろん、カノジョの姿も見当たらないんです。  そこはやはり台所とダイニングが一つになったような部屋で、板の間に昭和な香りのするチェックのビニール製クロスがかけられたテーブルと椅子が置かれており、流し台の上には穴のたくさん空いた、調理器具をかけるための緑色のパネルが貼ってあります。  その部屋の隅には勝手口のドアもあるのですが、なんの音も聞こえませんでしたし、そこを開けて外へ出たとも思ません。 「おかしいな。確かに今、ここにいたと……ん?」  怪訝に首を傾げながらその部屋を見回していた僕は、足に何かが当たったので視線を床に落としました。
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