雨音の記憶

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 すると、そこには木製の〝踏み台〟らしきものが転がっています。それも今風のものではなく、博物館で昭和の生活道具として展示されているような、そんなごっつい木でできた重たいものです。  人が住まなくなってからずっとそこにあったのか? 気づかずその踏み台に足がぶつかってしまったのです。  床に転がっているそれを見た僕は、無意識にその踏み台を手に取ると、起こして床に立たせていました……そして、床に立たせると、今度はその上に登りたいような気分になぜか駆られたんです。  なんだか頭がぼうっとして、その衝動に逆らうことができません……僕は右足を上げるとその踏み台の上へと置き、左足も引き上げて同様にそのとなりに置きます。 「…………」  なぜそんなことをしているのか? 疑問に思うこともなく、そうして踏み台の上へ立った僕は、すぅー…っと、意識が遠のいていくのを感じました。 と、次の瞬間です。 「なにやってんの!?」  不意の大声とともに、僕は背後から突然抱きつかれ、ドタン! と床へ倒れ込みました。 「……っ!」  身体を強かに打ち、気を取り直した僕が振り返ってみると、腰にはカノジョが抱きついて一緒に倒れています。 「……ど、どうしたの?」 「どうしたのじゃないよ! なにやってんの!? 今自分がしようとしてたことわかってんの!?」  わけがわからず僕が尋ねると、カノジョは涙目で僕を見つめながら本気で怒っています。 「冗談でもそんなことするもんじゃないよ! ほんとに死んじゃうかもしれないんだよ!」  泣きそうな顔でそう怒鳴り散らすカノジョがふと見上げた天井の方へ僕も目を向けると、そこには先端を輪っかにした一本の縄が梁からぶら下がっています……。
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