雨音の記憶

7/7

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 もちろん、もうサイクリングを楽しむ余裕など微塵もなく、まっすぐ駅へ全速力で向かうと、ずぶ濡れのまま電車が来るのを待っていたのですが……その待ち時間に駅前を通りかかった村の人がいたので、ちょっとあの空き家のことを訊いてみたんです。  すると、あの家にかつて住んでいた祖父母と若い親子三代の一家は、交通事故で母親を残して全員が亡くなり、残された母親も心を病んで首吊り自殺をしていたことが判明しました。  いわゆる〝事故物件〟というやつですし、他に使う者は誰もおらず、それから何十年もの間、あの家は空き家のまま放置されているそうなんですが……僕が見たあの女性はその自殺したという母親で、あの踏み台に登った時、僕の中には彼女の記憶が入り込んでしまっていたのかもしれません……。                       (雨音の記憶 了)
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加