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ガラス越しのregret
水滴は窓の外をゆっくりと伝い、やがて、すっと流れる。指を這わせてもその雫には触れられず、ただ冷たさだけが伝わって、心のどこかからその指先の狭い面積のぶんだけ熱が奪われていく。
雨の日は、いつも君のことを思い出す。雨の冷たさを知るたびに、君との距離はひらいていく。
「雨はきらい」と君は言った。服が濡れるからか、髪型が崩れるのが嫌なのか、洗濯物が乾かないからか、雨音が耳に障るからか。理由は聞けなかった。僕は雨が好きだった。
君を知りたい。君にもっと近づきたい。
その思いを隠してきたから、君の心が他の男に夢中なこともわかっていた。きっとその想いは叶わない、どうして僕じゃないんだ、透明で壊れやすい君の心を守りたい、雨空を見上げながら思った。
梅雨が明けて真っ青な空が広がった季節。君は勇気を振り絞り、ガラスを突き破るように踏み出した。
弱いのは君じゃなく、僕だった。君が持っていたものは僕のなかには無かった。
「僕は雨が好きなんだ」
いつかそう言えたらと思いながら、僕は最後まで指先ひとつ伸ばすことができなかった。
君の頬を涙がゆっくりと流れていく。ガラス越しの水滴のように、その雫に触れることはできない。
(了)
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