雨の国

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 約束通り男は月に1度やって来た。そのたびに樽いっぱいに雨を積めこみ、金貨がたんまり入った布袋を置いていった。小雨のときには民が総出で溜めておいた雨水をかき集め、男に差し出した。次第に男は仲間を引き連れ、持ってくる樽の数も増えていった。要求される雨が増えた分だけ布袋も増えたので、国はみるみる豊かになった。国の豊かさに比例するように、暗かった空に陽が差す日も増えていった。  雨を売り始めてから1年ほどした頃、突然男はぱったりと来なくなった。雨の国に相応しくないぎらぎらと照りつける太陽の下、皆は男が来るのを待ったが、男どころか旅人の1人も訪れることはなかった。 「誰も来ないのなら自分たちでなんとかするしかない」 「しかし水がなければ作物は育たないぞ」  雨の国はもう雨の国ではなくなっていた。降る雨が尽きたのだ。地から空に上って落ちる水そのものを失ってしまったこの国では、もう何日も雨が降っていなかった。 「金があっても食べられなければ意味がない」 「このままでは国が滅びてしまう」  皆は頭を悩ませた。そしてある方法を思いついた。 「それじゃあ、行ってくる」  雨の国の男が1人、樽を積んだ馬車に乗って国を出る。携えた布袋から金属がぶつかる音がするが、聞きたいのはこれではない。本当に聞きたいその音は、水が地面を打つ、あの懐かしい音なのだから。 完
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