雨の国

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 あるところに雨の国があった。晴れることを知らないその国では、毎日のように地面が濡れていた。鳴り止まない水の音。薄暗い空模様。しかし民にとってそれは日常であり、当たり前の光景であった。  いつものように窓を打ちつける雨を横目に、大人たちは酒場で雑談をし、時間をつぶす。この国では外に出られるのは雨が弱くなったときだけなので、1日の大半は屋内ですごすのだ。電気などの動力は水車でまかなえるが、作物を育てることも、牧畜を行うことも出来ないので、まれにくる旅人を通じて食材を買いつける。収益は仕入れた糸などを使って布を織ったり、紡いだ藁をカゴにしたものを別の旅人に売ることで賄ってはいるが、すぐにまた食材を買うために消費されるので、国も民も貧しかった。  今日も雨は止まない。だが、今日はいつもと違っていた。知らない男が酒場の扉を開けて入って来たのだ。 「あんた旅の人かい?」  マントを羽織った男はうなずくと、テーブルの上に持っていた布袋をどんっと置いた。 「これで雨を売ってくれないか」  皆は首をかしげた。 「外に行けばいくらでもあるだろう」  馬鹿にしたようにそう返したが、男はいたって真面目に続ける。 「この土地に降る雨はこの土地の民のものだ。きちんと対価を払って頂戴したい」  布袋の口からきらりと光る何かが見えた。近くにいた酒場の店主が袋の紐を緩める。 「金貨だ」  大人たちがざわつく。 「外に馬車がとめてある。その樽の中に雨をわけてくれると言うのなら、金貨は対価として置いていこう」  何故この男は雨に金を払うと言うのだろう。 「月に1度、馬車をひいて訪れる。また雨をわけてくれさえしたら、そのたびに布袋をお持ちしよう」 いや待て、ただで手に入る水をくれてやるだけで金が生まれるのだ。この国では雨は止まない。ならば永遠に男から金貨を回収することが出来るのでは。  樽を積んだ馬車に乗り国を後にする男の背中を見送りながら、雨の国の民は初めて雨の国に生まれたことを喜んだ。
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